5 / 21

5

 冬の気配が迫る頃。光伸はいつものように智治(ともはる)の元へと向かっていた。視界に映る山の木々の葉は落ち、一部は枝がむき出しになっていた。心なしか、吐く息にも白さが混じっている。  寒さが厳しくなる前にと、光伸の手には火鉢が抱えられていた。土蔵の中は冬場になると、芯から凍えるような寒さになる。この時期になると光伸は毎年のように、火鉢を用意してやっていた。  いつものように声をかけ、土蔵の中に足を踏み入れる。薄暗い室内は、少し冷え込んでいて、智治も着流しの上に半纏を羽織っていた。 「今日は冷え込むな。すまない、もっと早く持ってきてやれば良かった」  部屋の隅に火鉢の準備をしつつ、光伸は言った。 「ううん。僕は平気だから。それよりも、お兄ちゃん重たかったでしょ?」  智治は眉尻を下げ、蝋燭で光伸の手元を照らしている。土蔵の中は光があまり差し込まず、昼でも薄暗かった。 「気にすることはない。これぐらいやって当然のことだからね。それよりも、火鉢を使うときは火の元に気をつけるんだよ。それから必ず、換気すること。寒いだろうが、辛抱してくれ」 「うん。ありがとう」  蝋燭の火に照らされ朱色に染まった智治の頬が、柔らかく笑みを作る。その様子に、どんな大仕事だってしてやれると思えた。 「炭に火を(おこ)してくる。それが終わったら、温かいうちに身体を拭いてあげるよ」  光伸は土蔵の外に出ると、扉のすぐ近くでたき火を熾す。そこで火起こし鍋に炭を入れ、熱した。それが済むと、土蔵の中に戻って火鉢に移す。 「これで湯を沸かせる。鉄瓶と(たらい)を持ってくるから、見張っていてくれ」  そう言って、光伸は再び母屋へと戻る。  水の入った鉄瓶と盥を手にして、光伸が戻ろうとしたところで運悪く父と廊下で鉢合わせてしまう。

ともだちにシェアしよう!