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「少し智治に構い過ぎじゃないのか」  智治の世話を終えて光伸が父の部屋にいくと、開口一番に父が切り出した。  睨め付けるような視線を光伸にくれ、髭を蓄えた口で煙管(きせる)を銜える。 「私の大切な弟です。気に掛けてやるのは当り前のことです」 「お前はもう二十三だ。大学を卒業したら私の仕事を手伝って貰う。今以上に忙しくなるのは、お前だって分かっているだろう」 「はい。承知しています」 「それにお前は家庭を持つ。その時はその女に世話をさせろ」  光伸は眉を顰め、父を見た。そんな話は寝耳に水だ。 「……どういうことですか」 「卒業したら(しか)るべき子女と婚姻してもらう」 「相手は誰なんですか?」 「お前が知る必要はない。ただ、家柄は申し分ない。向こうもこちらとの婚姻を望んでいる」  いつかはこういう日が来ると分かっていたが、まさか顔も知らぬ人間と結婚させられるとは思ってもみない。それにその女性が、智治にどう接するのか疑問だった。 「智治の世話は私がします。父さんもご存じでしょう? 以前、智治が危険な目に遭わされたことぐらい」  智治があの場所に移った当初。使用人の男が世話をしていた。  三食の食事と入浴の世話。他にも身の回りの細々としたことをやっていた。最初こそは真面目にやっていた。だが、智治の発情期に差し掛かったおりに、薬を与えずに襲いかかったのだ。間一髪で光伸が止めたことで大事には至らなかった。だが、その事があって以来、光伸は自分が世話を請け負うことに決めていた。 「女であれば問題はないだろう」 「その方はオメガなのですか?」  父がオメガを家に入れるはずがない。案の定、父の顔に嫌悪が滲む。

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