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 授業を終えると、光伸は真っ直ぐ家に帰るために支度をした。その姿を見た同じ学生達が「坊ちゃんは大変だな」と囃し立ててくる。いつものことながら、光伸は言い返したりはせずに、笑顔でそれをあしらった。  学友達は光伸の事を付き合いの悪い男だと思っているようだった。陰で何かと嫌味を言われることは度々ある。  加えて光伸はアルファの中でも容姿に優れ、優秀な男であった。噂を聞きつけた近くの女学校の生徒が、学校までこそこそと見に来ることもある。ただでさえ浮いているのに、さらに周囲から反感を買う羽目になっていた。  だが、光伸にはどうでも良いことだった。一刻も早く、孤独と恐怖に打ちに震えている弟の元に帰ることが、光伸には何より優先するべき事であった。  家に着いた頃には、真っ赤な夕日が山々の隙間から照らし、土蔵の壁を赤く染め上げていた。美しいはずの夕日が、今の光伸には不気味でおぞましく思える。 「智治!」  土蔵に着くなり光伸は格子越しに切羽詰まった声を上げる。昨日の父とのこともあり、智治のことが心配でたまらなかった。  格子越しに驚いた顔の智治の顔が現れ、光伸はやっと安堵の息を漏らす。 「どうしたの? お兄ちゃん」 「他に誰か来てないか? 変わったことはないか?」  焦れたように光伸が問うと、智治は「いつもみたいに聡子さんが来たぐらい」と言った。 「今開けるからな」  そう言って光伸は表に回り、施錠を外す。  途端に甘ったるいような香りが薄っすらと鼻孔を(くすぐ)る。発情期の匂いだった。思いも寄らない状況に、光伸は眉を顰める。一瞬、中に入るのを躊躇(ちゅうちょ)したが、気を引き締めて足を踏み出す。  兄弟とはいえ、光伸はアルファであることには変わりない。いつ理性を失うか、その恐怖は常につきまとっていた。

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