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今にも泣き出しそうな女中に申し訳なく思い、光伸はすみませんと謝辞を述べた。
「つい頭に血が上ってしまって……話してくれてありがとうございます」
そう言って光伸が頭を下げると、女中が慌てた様子でそれを止める。
「い、いえ……私の方こそ申し訳ございません」
「貴女は悪くありません。父は部屋ですか?」
憤りを抑え込み、光伸は冷静に尋ねる。
「それが……旦那様はしばらく外出されるそうです。お戻りになられるのは、一週間後になります」
「どちらに行かれたか分かりますか?」
「場所は分かりません。ただ……商談だとは申しておられました」
光伸に問いただされることを恐れ、父は姿をくらましたに違いない。
光伸は悔しさと憤りに、吐き気が込み上げる。
「……大丈夫ですか? 顔色がよろしくないようで」
心配そうに顔を覗き込んでくる女中に、「抑制剤が何処にあるかご存じですか?」と問う。
自分で手に入れようにも、今の日本はまだ抑制剤が多くは出回っておらず、非常に高価なものだった。だからこそ、オメガは厄介な存在として殺されるか、売られるかされてしまう。運が良ければ番となる相手が現れ、幸せになる者もいるという。だが、それはほんの一握りだ。
「申し訳ございません……存じ上げないです」
答えは分かっていたが、光伸は酷く落胆した。
今は一刻を争う状況だ。このまま智治が発情期を迎えれば、誰も近づけなくなってしまう。発情期間は一週間。その間、智治を一人にし続けるのは酷なことだ。
申し訳なさそうに謝る女中に、光伸は慰撫する言葉すらかけることはできなかった。
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