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 土蔵に戻った光伸は、聡子は故郷にいる両親が病に倒れ、暇を出したのだと智治に告げる。父の手によって辞めさせられたと智治が知れば、自分を責めるかもしれない。それを避けるための嘘だった。  光伸の言葉を本当に信じたか分からないが、智治は素直に頷いた。 「明日、薬を買ってきてやる。どうやら切らしてしまったようだ。辛いだろうけど、今日は耐えてくれ」 「ありがとう。でも僕は大丈夫だから、無理しないで」  内心は不安で堪らないはずなのに、智治は笑みを浮べた。 「一週間耐えれば大丈夫なんでしょ? 僕は一人でも平気だよ。格子越しでも、お兄ちゃんの顔さえ見れれば頑張れるから」  そう言って兄を気遣う健気な弟を、光伸は堪えきれずに抱きしめる。高い温度と特有のオメガの匂い。白い首筋が着物の隙間から覗く。  ふと、光伸の中で暗い考えが過る。 ――智治と番になれば良いのではないだろうか  番になりさえすれば、智治は発情期に苦しむこともなくなるだろう。それに永遠に智治を自分の物にすることも出来る。  だが、自分たちは兄弟だ。血の繋がりが濃いと、それが可能であるのか不明だ。万が一、子供ができた時に影響が出ないとは言い切れない。こういった実例を光伸は聞いたことがなかった。それに自分がそれを望んでも、智治が拒む可能性だってある。  光伸は忌まわしい考えを振り払う。  守るべき弟を危険な賭けに巻き込むことは、誤ってもしてはいけないことだ。  自分に出来ることは明日の朝一番に汽車で都内に向かい、そこで薬屋を探して抑制剤を手に入れる。  それが自分のするべき最善の行動だった。

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