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そうこう考えているうちに、見慣れた土蔵が月明かりの元に晒される。いつものように裏に回ろうとして、不意に光伸は違和感に気づく。薄暗かりの中、扉の前の地面に何かが落ちている。よくよく見ようと近づき、光伸は目を見開いた。地面には壊れた南京錠の破片が落ちていたのだ。
慌てて扉を開けると、月明かりが蔵の中を照らし出す。
足を踏み入れようとして、光伸は留まった。
眼前にうつ伏せに倒れた男。体付きが逞しく、着ている着物は高価な物のようだった。智治ではない。それでも、ただならぬ状況に背筋に冷たい汗が伝う。
「智治! いるなら返事をしろ!」
光伸は声をかけつつ、中へと足を踏み入れる。暗がりの中から、か細い声で「お兄ちゃん」と聞こえた。
それほど広くない蔵の端っこに、膝を抱えて震えている智治の姿を見つける。その手には何やら長いものが握られていた。
「どうしたんだ? 何があった」
智治の元に駆け寄り、はっとした。格子越しの光に照らされた智治の青ざめた顔には、血が付着していた。震える手には火かき棒が握られており、先端が赤く染まっている。明らかに血痕だ。
光伸が火かき棒を智治の手から奪うと、地面に置く。
「……お兄ちゃん」
光伸に向けられた目は潤み、息づかいも荒い。近づくだけで身体が熱を発しているのが分かる。本格的な発情期が始まったようだった。血の臭いに混じった、情欲をそそるような匂いに光伸は目眩がした。
「どうしよう……僕、人を殺しちゃった」
「一体何があったんだ? あの男は誰なんだ?」
顔を歪め涙を溢す智治に、光伸は必死で問う。
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