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第8話  記憶(7)

「じゃ、行ってくる。」 「うん、いってらっしゃい。」  ロウが指定した学校は私立で受験が必要だったのだが、ある程度勉強を教えていた上本人の吸収率が非常に高く、なんと首席で突破した。さすがロウ。うちの子スゴイ。 「・・・確かに、寂しくなるかも。」  ふと口から零れたその言葉は、誰にも届くことはなかった。 side ロウ 「これより、霧ケ峰中学校の入学式を始めます。一同、礼。」  入学式が、始まった。これで本当にレイと離れ離れだ。くそ。全寮制じゃなかったから妥協したものの、やはり不満が残る。 (レイは、寂しかったりしねえのかな。)  ぽつり。心に残った不満が、不安が広がる。 「入学生代表式辞、黒崎狼。」 「はい。」  考え事をしているうちに、それなりに時間が経っていたようだ。式辞で自分の名前が呼ばれ、前へと出る。 「うららかな春の日差しを感じる今日この頃、この霧ケ峰中学校に入学できましたこと、とても嬉しく思います。保護者の皆様も、本日はお忙しい中お越しいただき、ありがとうございます。さて、本日を以って、私たちはこの学校で共に学び合い、競い合う仲間となります。ここに集まることができた皆さんと、この学校で楽しい思い出が作れることを楽しみにしています。入学生代表式辞、黒崎狼。」 パチパチパチ。拍手が起こる。俺は一度礼をして席へと戻った。 「式辞、お疲れ様。」 「・・・誰だ?」  隣のに座っている奴が、急に話しかけてきた。名前は・・・知らない。そもそもレイ以外にあまり興味がわかない。だから覚える気もなかった。 「小泉敦人(あつと)だよ。黒崎狼クン?」  馴れ馴れしく名前を呼んでくるそいつに、あまりいい印象は抱かなかった。

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