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結婚飛行3
2018年、4月某日
10個のコロニーから羽蟻たちが飛び立った。
羽蟻の区分は新生・女王蟻と雄蟻たちである。
なぜ彼らは時期を示し合わせたように一斉に飛び立つのか、その理由は不明だが、研究室の窓を開けて日光を入れたこと、春風の香り、様々な要因が蟻たちに関係していると考えられる。繁殖期の蟻たちに見られるこの交尾は結婚飛行と呼ばれており、この目で確認するのが毎年の楽しみであった。
10個あるコロニーのうち、6番目のコロニー・シスタで面白い事例が確認された。
新生・女王蟻(筆者はこれをローゼンと命名し、以下からローゼンと記す)の世話をずっと買って出ていた世話役の蟻(同じくダリと命名、以下はダリと記す)が、結婚飛行に付いてくる事例が確認された。
本来、巣穴から出てきた女王蟻を追いかけることは無いが、他に例を見ないほどにローゼンに固執していたダリは過保護にもローゼンを追いかけたに違いなかった。
交尾を終えたローゼンは旧13コロニーに着陸し、その瞬間に羽を切り落した。そして旧13コロニーの女王蟻がいたとされる最深部へと潜っていき、遅れてダリが到着した。女王の羽衣を拾い上げるようにローゼンの羽を持ち上げて巣穴に引き込んでいた。
やがてローゼンが働き蟻を産卵し始める頃には、ダリが代々仕えた執事のように働いていた。その姿はシスタに居た頃と変わりないように思えたが、異変が起こった。
ローゼンの子供が増えて13コロニーが一国として栄え始めたが、適齢期になっても新女王蟻が生まれてこない。
そもそも女王蟻は、育てられ方によって後発的に生まれてくると言う。
つまり、幼児期に良質な餌を貰った雌蟻が女王蟻として育っていくだけで、出生からの区分はされない。にも関わらずいつまで立っても後継ぎが姿を見せなかった。
また、仲間内で殺し合う姿も目撃された。肉団子が多く集められている部屋を見つけた。よくよく観察していくと、その首謀者はあのダリだった。
ダリの不可解な行動の理由を推察することは困難だが、人に置き換えて憶測するなら嫉妬ではないだろうか。
この点については未だ検証が必要である。
引き続き蟻の社会性について研究し、記録を行うこととする。
追伸
この時期の花粉症には気をつけた方が良い。
私がくしゃみをすると蟻たちが驚くように思われる。
ジャスマン・G・マルゴー
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