4 / 5

マリッジライフ

朝なんか来なければいいと思った。  けれどジャスマンは時間がくれば夜を捲り、気が済めば朝を浚う。  それはローゼンと共に過ごす日々がもう一日増えるという喜びであると共に、忍び寄る不穏の闇を育てる事にもなる。 「ダリ、お願いだから部屋に入らないで」  祖母が使っていたという東の国のこの城には、俺たち二人しかいない。  国といえば栄えているはず。だが、この国には誰も居ない。まるでローゼンが群れを築く為に、全て一掃されたような空間だった。  無冠の間で交尾を終えたローゼンは、この城にたどり着くや否や羽を落した。無造作に落ちていた羽を目印にしてたどり着いた俺は、城中を探してようやくローゼンに再会した。  女王の間の寝台に横たえていたローゼンは、俺と共に過ごしていたころの面影はなかった。  一国を担う女王、それは群れで唯一のオメガである。  性の開花をしていなかったローゼンが持っていた新雪のような清らかさも、  決して俺を受け入れることがなかった頑なな身体も、全てが汚れていた。    真っ白な肌に散らされた赤い情痕や、白液にまみれた身体。男の性を搾り取って熟れた身体に、蕩けた瞼が天井を眺めていた。心なしか腹が膨れて見えるのは、――考えたくもないことだ。  ローゼンに群がったアルファの雄たちが、代わる代わる交尾をした証だろう。 「お願いだから、私の産卵を見ないで」  寝台の傍に立ち尽くしていた俺を、ローゼンは突き放した。 「貴方を愛しているだなんて、言う資格が無い私を見ないで……」  俺は悲しみと苛立ちと絶望でどうにかなりそうだった。この場で暴れ散らしてローゼンを無理矢理にでも犯してやれないものかと思ったが、ほろほろと涙を零すローゼンを見ているとどうしようも出来なかった。    2人で暮らしていた時は、姫と従者だった。あの頃を思い出すと切なくなる。  俺は、ローゼンを愛する資格がないベータだ。気持ちがどれだけ強くても、ローゼンの身体はアルファの男しか受け入れられない。種族とはこんなにもどうしようもないのだろうか。  俺は涙を流すローゼンの額にキスをした。兄と弟が交わすような柔らかいものを。 「泣くなよ、ローゼン。お前はこれからたくさんの卵を産んで、国を作らないとならない。俺たちが生まれたシスタの国の女王に聞いたんだ、女王は国民をその腹から生むのだと。だから、お前はこれから国を作ることだけを考えてくれ。俺はサポートするから」  ローゼンの細い指先が伸びてくる。その手を取って口づけを落し、互いにそっと握った。 「ダリ……、でも、私は貴方を裏切ってしまったじゃない……こんな姿、見て欲しくないんだ」 「俺たちはオメガとベータなんだから、身体が繋がらないのは始めから解っていたころだろう? そんなものはたいした問題じゃ無い。俺たちはもっと強い絆で繋がろう、ローゼン」  愛していれば身体はいらない。始めからそうだったじゃないか。 「愛しているよ、ローゼン。一緒にこの国を作っていこう」 「ダリ……っ」  互いに身体を引き寄せてキスをした。他の男の匂いに包まれていたってこれは俺のローゼンだ。  ここには誰も居ない。忌々しいアルファの男が再びローゼンを犯しにくることもない。  これから生まれる子供たちを一緒に育てよう。それはきっと幸福な日々に変えていける。  俺たちならそれができる。    そうだろ? 

ともだちにシェアしよう!