3 / 24
第3話【僕の目覚め】
冷たい指が、喉に食い込んでいく。焼けるんじゃないかってくらい日の光を浴びて、ほんの少し汗ばんでいた僕には、丁度いい温度かもしれない。
――そうしていたいなら、受け止めてあげたい。
――でも、抵抗される方がお好みでしょう?
「は、ぁ……っ! ぅ、ふ……ッ」
「僕、僕……? ねぇ、どうしたの?」
「ぅぐ、は……ぁッ」
首に回された、冷たくて大きな手を、力無くペチペチと叩く。
朦朧とする意識の中、薄っすらと瞳を開けてみる。視界には、僕の事を見下ろしながら、僕の首を絞めてきている人物が映った。
「え…………あ、あぁ……そっか。ごめん、ごめんね……」
僕の視線で、何かに気付いたらしい。首の温度で若干だけれど温まった手のひらが、離れていく。
だから僕は、素早く酸素を取り込み始める。
「ゲホッ! ぇほッ、ゲホッ! はッ、はぁ……はぁ……っ」
そんな僕の様子を見て、当事者は悲し気な表情を浮かべたではないか。
「ごめん、ごめんね。だから、意地悪しないで。僕は僕に無視されたら、どうしていいのか……っ」
再度、ベッドの軋む音が聞こえた。それと同時に頭がより深く、沈んでいく。
僕が頭を載せている枕に、手でもついたのだろうか。体重がのしかかった事により、枕がほんの少しだけ凹む。
「起きて、起き――てるか。起きてるね」
「はぁー……っ、うん、起きてるよ……あ――りがとう、起こしてくれて」
『危うく永眠するところだった』と言いかけて、慌てて言葉をすり替えた。
「うぅん、いいよ。いいんだよ……だって、僕は僕の家族なんだから」
言葉は優しいのに、声が震えている。
人に優しくするのは、いい人だと思われたいから。
それはつまり、エゴと承認欲求の現れ。そんな事を、どこかで誰かが言っていた気がする。……僕の自論だったかな。そうかも。
……あぁ、一応言っておくけど、僕の事を起こしてくれたのは優しさじゃないよ。普段から彼は優しいけれど、これは違う。
だって、下心――もとい、ちゃんとした目的があるんだから。それを『優しさ』だなんて言っちゃいけない。
――大前提として、彼はそんなずる賢い人間じゃない。
「……朝からどうしたの?」
まるで、押し倒されているかのような構図に、クラクラしてしまいそう。
けれど、今はそんな腑抜けた事を言っている場合じゃない。
少しだけ身じろぎ、しっかりと顔を向き合わせる。
――不意に……温かな体液が、頬を伝って、頬に零れ落ちた。
暗くて、赤い瞳から、体液が零れる。
何度も、何度も、何度も。
赤い瞳から溢れるくせして、お前達だけ透明だなんて、いいご身分だな。不覚にも『綺麗だ』なんて思っちゃったじゃないか。睨まれない事に感謝しろ。
……まぁ、どうせ? 僕が睨んだら、お前達は大群で押し寄せて、僕の頬を濡らすんだろう?
ともだちにシェアしよう!