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第3話【僕の目覚め】

 冷たい指が、喉に食い込んでいく。焼けるんじゃないかってくらい日の光を浴びて、ほんの少し汗ばんでいた僕には、丁度いい温度かもしれない。  ――そうしていたいなら、受け止めてあげたい。  ――でも、抵抗される方がお好みでしょう? 「は、ぁ……っ! ぅ、ふ……ッ」 「僕、僕……? ねぇ、どうしたの?」 「ぅぐ、は……ぁッ」  首に回された、冷たくて大きな手を、力無くペチペチと叩く。  朦朧とする意識の中、薄っすらと瞳を開けてみる。視界には、僕の事を見下ろしながら、僕の首を絞めてきている人物が映った。 「え…………あ、あぁ……そっか。ごめん、ごめんね……」  僕の視線で、何かに気付いたらしい。首の温度で若干だけれど温まった手のひらが、離れていく。  だから僕は、素早く酸素を取り込み始める。 「ゲホッ! ぇほッ、ゲホッ! はッ、はぁ……はぁ……っ」  そんな僕の様子を見て、当事者は悲し気な表情を浮かべたではないか。 「ごめん、ごめんね。だから、意地悪しないで。僕は僕に無視されたら、どうしていいのか……っ」  再度、ベッドの軋む音が聞こえた。それと同時に頭がより深く、沈んでいく。  僕が頭を載せている枕に、手でもついたのだろうか。体重がのしかかった事により、枕がほんの少しだけ凹む。 「起きて、起き――てるか。起きてるね」 「はぁー……っ、うん、起きてるよ……あ――りがとう、起こしてくれて」  『危うく永眠するところだった』と言いかけて、慌てて言葉をすり替えた。 「うぅん、いいよ。いいんだよ……だって、僕は僕の家族なんだから」  言葉は優しいのに、声が震えている。  人に優しくするのは、いい人だと思われたいから。  それはつまり、エゴと承認欲求の現れ。そんな事を、どこかで誰かが言っていた気がする。……僕の自論だったかな。そうかも。  ……あぁ、一応言っておくけど、僕の事を起こしてくれたのは優しさじゃないよ。普段から彼は優しいけれど、これは違う。  だって、下心――もとい、ちゃんとした目的があるんだから。それを『優しさ』だなんて言っちゃいけない。  ――大前提として、彼はそんなずる賢い人間じゃない。 「……朝からどうしたの?」  まるで、押し倒されているかのような構図に、クラクラしてしまいそう。  けれど、今はそんな腑抜けた事を言っている場合じゃない。  少しだけ身じろぎ、しっかりと顔を向き合わせる。  ――不意に……温かな体液が、頬を伝って、頬に零れ落ちた。  暗くて、赤い瞳から、体液が零れる。  何度も、何度も、何度も。  赤い瞳から溢れるくせして、お前達だけ透明だなんて、いいご身分だな。不覚にも『綺麗だ』なんて思っちゃったじゃないか。睨まれない事に感謝しろ。  ……まぁ、どうせ? 僕が睨んだら、お前達は大群で押し寄せて、僕の頬を濡らすんだろう?

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