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第6話【僕等の情欲】

 理解するよりも早く、背中が柔らかな感触に包まれる。少し考えたら分かった。ベッドだ。間違いない。  だけどわけが分からず、目を丸くする。天井だけが広がっていた僕の視界を一瞬で埋め尽くしたのは……一太郎君だ。  頬に手を添えられ、優しく撫でられる。僕が猫だったら、喉が忙しなくゴロゴロと鳴っていただろう。犬だったら、尻尾が千切れ飛んでいたかもしれない。そのくらい、心地いい手付きだ。  頬を撫でていた筈の指が、僕の唇をなぞる。  そして、一太郎君が不敵に笑う。 「目、閉じて」 「一――」 「難しい? 出来ない?」 「……っ」  言われた通りに、目を閉じてみた。  ――駄目、駄目だよ、駄目。 「いい子だね」  心臓の音が、ダイレクトに鼓膜を震わせている気がする。もしかしたら、一太郎君に聞こえてしまっているかも。  ――あぁ、でも……それすらも、気持ちいい。 「ん……っ」  一太郎君の唇が、重ねられる。初めは、啄むように。だけど角度を変えたら、深く深く口付けられて。音も、吐息も、全部飲み込まれていく感覚。  ――一太郎君、駄目だよ。  ――これ以上、好きにさせないで。  ――あぁ、あぁ。駄目だよ、駄目。  大好きなんかじゃ足りないくらい、僕は一太郎君に溺れていく。その感覚すらも快感だなんて知ったら、一太郎君は何て言うかな? 破廉恥だって、軽蔑する? それはちょっと恥ずかしいかも。  暫く表面だけでお互いを感じていたけれど、一太郎君は物足りなくなったらしい。 「ふぁ、ゃ……ん……っ!」  ――突然、舌が侵入してきた。  口内を好き勝手蹂躙するその動きに、僕は堪らず声を漏らす。けれど、一太郎君はそんな事一切気にした様子も無く、歯列をなぞってきた。  ――さっきまで泣いていた一太郎君は、もういない。  ――ここにいるのは……情欲にまみれた、一人の男だ。  一太郎君の手が、寝巻の中に差し込まれる。それがどういう事を意味するのか、分からない程初心じゃない。 「ん、ん……ッ――は……っ!」  さすがに、これ以上は駄目だ。いや、僕の身と心はいつだってウェルカムだよ? 一太郎君になら、いつどこでどんな事をされたって構わないさ。痛いのも苦しいのも辛いのも、一太郎君が好きなら全部快感に転じられる自信がある。……訂正。自信しかない。  だけど、僅かに残った理性が仕事をした。  顔を背けるようにして、一太郎君からのキスをかわす。 「こ、これ以上は……やぁ……っ」  あ、何かちょっといやらしい言い方をしてしまった。それもそうか。理性以外はウェルカムなんだから、仕方ない、仕方ないさ。

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