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第10話【僕の答え(二)】

 教室に入るや否や、一人のクラスメイトが声を掛けてきた。 「よぉ! かずいちコンビ~!」 「「おはよう」」  一太郎君と僕で、挨拶を返す。  ……と言うか『かずいち』って何? 二次創作とかに使うカップリング名みたいな略し方して……興奮しちゃうじゃないか。  という、毎朝のやり取りは置いておこう。さすがにそろそろ、その呼び方にも慣れなくちゃね。  そのクラスメイトは、一太郎君と僕によく話し掛けてくる。良く言えば『フレンドリー』な人だ。いつも明るいし、クラスでも人気者の部類だろう。  ――勿論『良く言えば』という事は、悪い言い方も出来るが。 「あ、壱太郎。昨日、下校中にゴミ拾ってなかったか? 俺、素直に感心したわ! 顔がいいくせに、性格もいいとかやめろよ~!」  机の上に鞄を置こうとした一太郎君の手が、ピタリと止まった。  ――そんな記憶、僕には無い。  ――という、事は……? 「…………それ、僕じゃないよ」  何が可笑しいのか、自分の席に座ってニコニコと笑っているクラスメイトを見下ろしながら、冷たい声色で否定する。  ――すると、想像通りの言葉が返ってきた。 「あ、逆だった? ……まぁ、一太郎も話、聞いてただろ?」  ――一太郎君が、曖昧に笑う。  ――必然的に、僕の胸が軋む。  胸の痛みに、あえて音を付けるなら……ギチギチと、油の少ない歯車が鳴らすような、醜い音色。鈍くて、思う通りに進めなくて、もどかしいくらい長々と残る……そんな痛み。  一太郎君と僕の存在をごちゃ混ぜにされて、一太郎君のあんな笑みを見て、平静を保っていられるものか。僕の胸が潤滑剤を求めているなら、お前の血で滑りを良くしてやりたい。  ――気が向いたから、教えてあげる。  ――さっきのクエスチョン……その、答え。  二つ目の正解は【一太郎君と僕を誤認する人、全員殺す】さ。  間違える人がいなくなれば、一太郎君は傷つかない。素敵で無敵なハッピーエンドだ。  一太郎君の為に汚れるなら、本望。それに……僕が汚れたら、一太郎君は一層輝ける。まさに、一石二鳥……というやつだ。これは、狡くなんかないでしょう? むしろ『正当防衛だ』と叫んだっていいくらい。  良く言えば『フレンドリー』……悪く言えば『デリカシーが無い』クラスメイトを睨み付ける。曖昧に笑った一太郎君が着ている制服の裾を、ちょんと摘まみながら。 「言い直して」  このクラスメイトは、席順で一太郎君と僕を区別しているだけで、実際は僕等を区別出来ていない。  だから、僕を見て『壱太郎』と呼んだ事は当然。何も不思議な事ではないだろう。  だが、一太郎君を傷付けた事に変わりない。一太郎君が話を聞いていたか聞いていなかったかなんて、そんな事どうだっていい。  一太郎君に向かって、奉仕の精神を称賛し直したクラスメイトを見ても、胸に立ち込めたモヤは晴れなかった。

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