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第12話【僕の答え(三)】

 一太郎君はよく、怯えている。それは、子供の頃からだった。  慢性的に怯えているんじゃない。誰かに僕等を間違えられると、その都度怯えるんだ。……ある意味、慢性的か。  一度だけ、何に怯えているのか訊いた事がある。頭の中で、いくつかの答えを想定しながら。  僕が想定していた答えは二つ。  【否定によって、一太郎君が自己を完全に消失してしまう事】か【一太郎君だけじゃなく、僕すらも自己を見失ってしまうのではという危惧】だ。  ――けれど、返ってきた答えは違った。 『僕が、僕を殺してしまう事……それが、僕は一番怖い…………っ』  一太郎君()が、壱太郎()を殺してしまう事……それこそが、一太郎君の最も恐れるエンディング。  僕にしがみつき、涙ながらに打ち明けてくれた一太郎君へは、愛しさしか込み上げてこなかったのを、今でもハッキリと憶えている。  ――本当に、一太郎君は大馬鹿者だ。  ――こんな体……一太郎君の為なら、いつでも捧げられるのに。  一太郎君が望むなら、僕は殺されたって構わない。楽に殺したいのなら、抵抗もせず、一太郎君が求めるままに。惨たらしくて、グロテスク且つ残虐に殺したいのなら、喜んで腸をぶちまけよう。脳漿もオマケで付けるさ。当然だろう?  そのくらい、僕は一太郎君が大好き。一太郎君が自己肯定するうえで僕を邪魔だと思うなら、いつだって消されていい。弊害になんかなりたくないからね。好きなら、このくらい当たり前だと思わない?  勿論、忘れられちゃうのは悲しいけど……死の間際、僕という存在が最期まで想い続ける相手は、一太郎君だ。その事実は、誰にも邪魔されず残るだろう。  だから、それでいい。それが僕のエンディングで、ヒストリーなら……世界で最も羨まれる素敵で無敵なハッピーエンドさ。  ……さて、賢い人ならもう分かるだろう? 残された、最後の答えってやつが……ね?  三つ目の正解は【諸悪の根源である比較対象を消す】さ。シンプル、明快、清々しい程単純で、簡単な答えだろう? 物足りなさを与えてしまったなら謝るよ、ごめんね。  ただ一つ、誤解しないで欲しい。  ――僕は決して、誰かを楽しませる為に……こんな、馬鹿げた答えを用意したんじゃねぇんだよ……ッ!  何日も、何ヶ月も、何年もッ! 僕等は傷付いて、ボロボロになり続けたッ! 可笑しいだろう? 僕等は傷付いているのに、他の奴等は何の躊躇いも無く僕等を攻撃し続けるッ! 血が見えないから、傷付いていないとでも? 『笑止』とでも言わせてぇのかよッ! 忌々しい、腹立たしい、憎たらしいッ!  僕等は二人ぽっちの、脆弱で小さなちっぽけすぎる弱々しい、ただの人間さ。敵が【僕等以外の人類全て】なのに、どうやって生きていけばいい?  ――僕等自身で、僕等を改革するしかないじゃないかッ!  ――そうする以外、僕等は僕等を守れないんだよッ!  だから必死に考えた。一太郎君を守る為に、いっぱいいっぱい、沢山沢山考えた。  ――一つ目の答えは、無理だ。そんなの、分かっているさ。  ――二つ目の答えも、現実的じゃない。僕一人じゃ、限界がある。  ――なら、三つ目は……?  出口の無い【存在証明】という迷宮。その最奥に、僕は随分と前から……辿り着かされている。

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