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第13話【僕の願い】
一太郎君はきっと、僕を殺せない。
勿論僕は、抵抗なんてしないさ。望まれるままに死ねる。何も悲しくないし、怖くもない。
だけど……一太郎君は優しい。だから、僕を殺せないと思う。
どんなに僕の身と心が準備を終えていても、一太郎君には出来ない。それはとても嬉しくて、とても悲しい事だと思う。
好きな人にここまで想われているのに、好きな人の手では決して終われないなんて……幸福に包まれているけれど、カタストロフィの域を越えられないストーリとエンディング。
例えるなら、そう。とても複雑だけど、誰にでも分かるストーリーみたいな感じかな。……『分からない』って? それはごめんね。
だけど、僕等の人生はそういうものなんだと思う。
生きて、生きて生きて生きて。互いの存在を証明出来るのは、互いだけ。赤の他人はもとより、血の繋がった両親でさえ、僕等の違いを証明出来ていない。確証さえ、持てていない現状。
外国人から見たら、皆同じ顔に見えるだろうと、自身を慰める事は可能だろう。そう考えた事は確かにあったけれど、僕等は同じ国の人からも『同じだ』と言われているんだ。土俵が違う。話をすり替えたって、本題の解決には繋がらない。
僕は、一太郎君を愛している。きっと、一太郎君だって僕を好きな筈。
――でも……このままじゃ、駄目なんだよ。
成長と共に、僕等は大きな選択を迫られていく。例として挙げるなら……そう。高校入試、とか。
僕等の世界が別々だったなら、きっとこうはならない。例えば、そう……高校だ。
別々の高校 を選択していたなら、もっと違う未来が出来ていたのかも。それは、中学の時から薄々分かっていたさ。
けれど、僕は一太郎君から片時も離れたくない。一太郎君も、僕から離れようとなんて絶対しなかっただろう。
――互いがいないと駄目だけど、互いがいたって駄目なんだ。
だったら、そう思うどちらかを消してしまえばいいんだ。要らないデータをデリートするのと同じ。要らない方を消せばいい。
存在しているから、求めてしまう。形が無くて、この世界に存在していないなら……きっと、求めなくなるだろう?
能力値が同じだから、どちらが要らない方なのか、明確には示せない。だったら、感情論で解決しようじゃないか。
一太郎君より、僕の方が愛は深い。だから、僕は一太郎君に生きていて欲しい。僕の思考は、いつだってシンプルなものさ。
もしも……壱太郎という人間が、たった一つでも願う事を許してもらえるなら。本当に些細で、吹けば飛んでいくような、ちっぽけすぎる小さな願いをどうか、唱えさせてほしい。
――僕を失った一太郎君の未来が、幸福に満ちていますように。
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