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第15話【僕の違和感】
死に方は、色々考えた。
敵である世界に向けてどう報復出来るかとかも考えて、パターンも複数考えてみたし……単純な首吊りの準備も、手首を掻っ切ってみる方法も、どこかから飛び降りるのも……やり方は無限大。
――でも、選べるのは一つだけ。
最後の最期まで、一太郎君には好きでいてもらいたい。首吊りとかは後々汚くなるみたいだから、そんなところ見せたくない。ちょっとしたプライドさ。
だから、二度と見つからないような死に方が望ましい。一太郎君の記憶に残る僕が汚いなんて、絶対嫌だ。……最後の思い出があんないやらしい僕なのは、ちょっと恥ずかしいけど。
脱ぎ捨てた高校の制服に身を包んで、外に出る。持ち物はスマホ一つで十分さ。
『今から、待ち合わせ場所に向かいます』
メールを送信してから、スマホをポケットに突っ込む。秋の風が僕から体温を奪っていくけれど、欲しいならいくらでもくれてやるさ。今日の僕は、最高にハイなテンションだからね。
ネットという文明の利器は、本当に凄いと思う。死にたい人なんていくらでも探せるし、殺したいという人も沢山探せる。
丁度近場で、タイミング良く見つけた、殺人願望を持つ誰か。その人が誰なのかなんて、どうだっていい。
僕等のリレーションシップは、とてもシンプル。殺したい誰かと、殺されたい僕だ。
あっちは殺した後、死体遺棄まで完璧にやってみたいらしい。
僕はというと、殺された後、死体遺棄まで完璧にやってもらいたい。利害関係の完全一致。パーフェクトさ。世界も捨てたものじゃない。今から捨てるけど。
メールでしかやり取りをした事がなかったけれど、その人は変な人だ。人を殺してみたいくせに、やたらと僕の心配をしてきた。
『悲しむ人はいないの』とか『考え直すなら今の内だよ』とか……全く訳が分からない。僕は僕を殺したいと思った事はあるけれど、誰かを殺したいなんて思った事が無いから、殺人願望のある人の気持ちが分からなくて当然だろうけど。
一太郎君と並んで、一緒に見続けたこの街並み。名残惜しくはないけれど、何となく目的地まで遠回りしてみたくなって、ゆっくりと歩く。
一太郎君の枷になっている自分を、やっと消せるんだ。幸福すぎて、濡れてしまいそう。
痛いのか、耐え難いものなのか……何も分からないけど、きっと大丈夫。
瞳を閉じたら、浮かぶのは一太郎君の笑顔。だから、何も怖くない。
幼い頃、一太郎君はよく笑う子だった。今は泣いてばかりだし、笑ったとしても小さな表情筋の動きだけど、満面の笑みだって思い出せる。
あれは、そう……まだ、一太郎君が自己を見失う前の――。
「…………?」
――まただ。
――この、妙な違和感。
一太郎君が笑っていたのは、そんなに昔の事だったっけ……?
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