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第19話【僕の謝罪】

 ――何で。  当然の疑問は、声には出せなかった。  目の前にあるリアルが信じられないくせに、逃げる事も出来ない。僕は鉄筋に腰を下ろしたまま、体を小刻みに震わせる。  僕を見下ろす【約束の人】は、悲しそうに眉を寄せた。 「どうして震えているの?」 「え……ぁ……っ?」 「なんて。言われなくたって答えは分かるよ」  暗い、赤い瞳に、僕が映っている。何て情けない顔をしているんだろう。こんな顔、ベッドの中でだってしない。  同じ高校の、同じ制服。同じ髪型に、同じ背格好で、同じ顔。  唯一違う目の色だけが、怖いくらい鮮明に、僕を叱っていた。 「思い出しちゃった?」  ――一太郎君はそう言って、小さく笑う。  さっきまで僕の腰を抱き寄せていた手が、僕の頬を優しく撫でる。そのまま目元を撫でられ、体が大きく震えた。 「可愛い」  腰が抜けそうな程、甘い声。仲良し同士の人がする行為をしている最中に出す声と、何ら変わらない。  いつもの僕なら、チョロさマックスで脚を開き、甘美な囁きを『もっと』と催促しただろう。  ――でも、それどころじゃない。 「か、一……太郎、君……っ」 「ん?」 「ぼ、僕……ぁ、あの……ごめ――」 「駄目だよ」  ――瞬間、口を塞がれる。  目元を撫でていた優しい手付きが一変。有無を言わせないよう口を塞ぎ、目付きまでも変わってしまう。  射貫くような――射殺すような、冷たい目。そんな目で見られた事、ただの一度だって無かった。 「ふ、ぅ……ッ」 「喋っちゃ駄目。黙っていて。……ね?」 「……ッ」  小さく頷くと、口角を小さく上げてくれるけど……目は、怖いまま。 「何度も何度も何度も……本当にいいのかどうか、僕は訊いたよね? なのに、返事はいつも変な事ばっかり……」  指が、頬に食い込む。爪を立てられたら、傷が出来てしまいそう。 「『悲しむ人はいないの』って訊いたら『そんな人いないよ』って……僕は本当に、酷い人だ」  ――違う。  ――違うよ……ッ!  決して、一太郎君の事を忘れたわけじゃない。ただ、結果的に見たらきっと、幸せになれると思って……ッ!  そう言いたいのに、声を発する事は、許されない。言い訳なんて聞きたくないと言わんばかりの、強い力。 「僕が何に怯えているのか、訊いてくれたのに……それすらも忘れてしまったのでしょう? 本当に、酷いよ。酷くて、酷くて、残酷な人」  ――結果的にそうなってしまいそうなだけで、僕はそんなつもり無かった……ッ!  僕は、一太郎君に殺させたかったわけじゃない。そうならないように、先手を打ちたかっただけなんだ。  だけど……結果論だけ見たら、僕は残酷な人なのかもしれない。

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