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第20話【僕の駄々】
確かに、一太郎君はこう言っていた。
『僕が、僕を殺してしまう事……それが、僕は一番怖い…………っ』
忘れたりしない。そうならないように、僕は僕を消してしまおうと、その為の方法を沢山考えたんだから。
だとしても、この結果はどうする? 僕は、一太郎君に殺してもらおうとしていたんだ。
何とか首を横に振るけれど、一太郎君は手を離してくれない。
「違わない、違わないよ。何も分かっていないだろう? 何も、僕の事を分かっていない」
手を離してもらったら、真っ先に謝る。なのに、一太郎君はそれすらも許してくれない。
意図せず、涙が零れた。それは僕だけじゃなく、一太郎君の手や指すらも濡らす。濡らしたくないのに、一太郎君の手はどんどん濡れていく。それすらも悲しくて、更に涙が溢れた。
「僕は僕の事を、しっかり分かっているつもりさ。でも僕――壱太郎は、分かってくれていないんだね」
ビクリと、全身が震える。一太郎君に名前を呼ばれたのなんて、いつ振りだろう。
それ程までに、一太郎君は怒っているんだ。徹頭徹尾行っていた僕の真似を、止めてしまう程に。
「……ふ、ぅぅ……ッ」
「ん? 何か言いたいの?」
「ん……ッ」
何度も頷くと、一太郎君はようやく手を離してくれた。望んだ通りの事をしてくれたのに、見限られたみたいで悲しいなんて……僕はどうしようもない馬鹿だ。
「か、一太郎君……ッ! や、やだ……やだよ、やだ……ッ!」
「何が? 分からないな」
僕の事を『しっかり分かっている』と言ってくれたくせに、分からないなんて嘘を吐かれた。それすらも悲しい。
「き、嫌わないで……ッ! 僕は、僕、は……ッ! や、やだぁ……ッ!」
謝らなくちゃいけないのに、僕は何を言っているんだろう。頭の片隅では理解しているくせに、浅ましい本能が謝罪の言葉を塗り潰していく。
取り繕っている余裕は、無い。だって、僕は一太郎君がいないと生きていけないんだから。
「やだ、や……ッ、ふ、ぅあぁ……ッ!」
視界が滲んで、何も見えない。目の前に一太郎君が立ってくれているのかどうか……それすらも、分からない程に。
「き、嫌わ、ないで……ッ! お願い、おねがい……ッ! やだ、や、やだぁあ……ッ!」
「……言いたい事はそれだけ?」
一太郎君の声が、冷たい。
怖くて、非情で、冷徹だ。謝りたいのに、その声で尚更縋り付いてしまう。
「ぅう……や、やだぁ……ッ!」
「あぁ……本当に、酷いね。残酷で残虐で、狡い人だ」
子供のようにわんわん泣き出す僕を見下ろしながら、一太郎君は困ったように呟く。
――そのまま……僕が求めていた抱擁を、一太郎君はしてくれた。
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