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第22話【僕の理解】

 一太郎君の言う【僕】には、二つの意味がある。  単純に一太郎君という意味と、壱太郎という意味。  だから、一太郎君()壱太郎()を殺してしまう事を、恐れているんじゃないのか……でも、そう思っているから、齟齬が生まれている。  なら、逆? 壱太郎()一太郎君()を殺してしまう事――やめてよ、そんなの……冗談でも起こり得ない。  じゃあ、じゃあ……? 「考えて」  僕が熟考している事に、一太郎君は気付いている。それでも釘を刺してくる程、一太郎君は理解してほしいんだ。  答えを見つけないと、きっと僕等の関係は終わってしまう。僕はそのくらい、追い詰められているに違いない。 『僕が、僕を殺してしまう事……それが、僕は一番怖い…………っ』 『【させようとした】じゃなくて【しようとした】の間違いだよ……?』  ――考えろ。  この温もりを、僕はまだ――永遠に、手放したくないんだ。  一太郎君が僕を殺してしまう事……それを、恐れているんじゃない。ましてやその逆も、正解じゃなかった。  なら……な、ら……? 「――ぁ……あ、あぁ……ッ!」  ――違う。  【僕】には二つの意味があるけれど、二つじゃなかったんだ……!  時には、一つになり得るパターンも想定しないといけない。それくらい、初めに【僕】を使い始めた僕なら、分かって当然だろう……!  ――あぁ……どうして、気付けなかったんだ……ッ!  ――違う、違ったんだよ。 「か、一――」 「良かった」  それだけ言って、一太郎君が僕を抱き締める。一度空いてしまった距離を、埋めるだけでは飽き足らず、空白の時間すらも取り戻すように。  一太郎君が怯えていた事に、一太郎君は入っていない。  だって……一太郎君は、優しい人だから。 「分かってくれたのでしょう? なら、もうしないでね?」 「ん、んぅ……ッ!」  苦しいくらい抱き寄せられて、上手く話せない。だけど、全く嫌じゃないのは……一太郎君が優しいって、知っているから。  ――一太郎君、ごめんね、ごめん。  ――壱太郎()壱太郎()を殺してしまう事……それこそが、一太郎君の最も恐れるエンディングだったんだね。

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