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第23話【僕等の存在証明】

 世界で一番、優しい人。それが双子の兄、一太郎君だ。しつこく思われたって、何度でも言いたい。だって、それは誰にもひっくり返せない、クリアなリアルだから。  苦しいくらい抱き締められて、僕は何度も一太郎君の背中を叩く。暫く無視されたけど、めげずに叩き続けたら……ようやく、力を緩めてくれた。  その機を逃すまいと、僕は顔を上げて一太郎君を見つめる。 「ごめん、ごめんね……ッ、一太郎君……ッ!」  その謝罪には、沢山の意味が込められている。  ――僕の代わりに傷付いてくれた。  ――勝手に死のうとして。  ――理解するのが遅くなってしまった。  一太郎君に、少しでも伝わっているだろうか。全ての意味が、伝わる事なんて望んでいないけど。  でも……一太郎君は、全部分かっていそう。 「いいよ。……いい、いいさ。いい」  一太郎君は、本当にいつでも……僕の全てを分かってくれていた。  ――だけど、僕には分からなかった。  僕は、一太郎君を分かっているつもりで、分かっていなかったんだ。  【これが正解】と思い込み、自分の考えを勝手に当てはめ、知った気になっていた。  けど……僕は、一太郎君の事を何にも分かっていなかったんだ。  全てを理解している一太郎君と、何も分かっていなかった僕は……双子なのに、こうも違う。  ――それって、一太郎君と僕が全く別の存在だって証明する、素敵で無敵な証拠じゃない……?  まるで一太郎君のように泣き出した僕を見て、まるで僕のように、一太郎君も涙を溢れさせる。フリじゃなくて、本当の涙。  一太郎君の本心に、僕はきちんと触れている。一太郎君の優しさと愛情は、僕だけのもの。誰にもあげないし、邪魔もさせない。そもそも、出来ないでしょう?  僕は他者からの理解を求めた。だから、僕と一太郎君を傷付けてしまったんだ。  ――でも、もういい。  一太郎君を理解して、一太郎君に理解されて……こんなに幸せな事って、きっとない。 「好き……一太郎君、大好き……ッ」  いつかの日に、初めて伝えた想い。一太郎君は、憶えているだろうか。  ――なんて、きっと愚問さ。  ――そうじゃなきゃ、この先の展開は在り得ない。 「僕も、好きだよ」  そう言って、いつかの日に交わした口付けを、あの時と同じく一太郎君から贈られる。 「もう偽らないで」 「うん、約束……」 「素直で、いい子だね。だから、好きさ」 「僕も、一太郎君が好き……大好きさ」  きっとまだ、一太郎君には心配させちゃうだろうけど……それでも、時間はたっぷりあるんだから、焦らなくてもいいかな。  そう言ったら、きっと一太郎君はこう言うよね。 「焦らなくて、いいからね」  こんなに、僕を分かってくれている人がいる。  ――君の存在が、僕にとって最高の【存在証明】さ。

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