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第2話

───春、あれから約3ヶ月経った。 悠真は間口悠真となり、この春から中学生となる。 今日は明日の入学式に向けての準備日だった。 間口の人間と、いるものを揃えにデパートに来ているのだが悠真は一緒に来ているこの男が苦手だった。 「悠真、おいで。どれがいい?」 間口唯月(まくちいつき)。間口家のひとり息子である彼は悠真よりも4つ年上だ。茶色の艶やかな髪や整った顔、シュッとした出で立ちは俗に言うイケメンというやつだろう。 「別にいい」 唯月という男は少し変だ。こうして金持ちのくせに自分の足でなにかを買いたがる。高くても安くても関係なくだ。 そして、唯月は悠真を甘やかしたがった。それが悠真にとってはむず痒く、気持ちが悪かった。簡単に優しさに靡かれたくないのだ。頭の悪いΩにはなりたくないし、αを信用するにはまだ早い。 「好きなものを言っていいんだよ?」 その言葉に悠真はイラついた。好きなものを言っていい。ずっと言えなかった分、好きなものを言って生きてきたこの男の裕福さに妬みだが腹が立った。 「いいって!」 思わず声を荒らげる。しまったと思ったが遅かった。何人かほかの客がこちらを何事かと見てくる。 「はは、ごめんね悠真」 何に謝っているのか、悠真は更に苛立った。 「こういうところに来るのはあまりなかったのかな?」 「・・・・・・」 無言で目をそらす。 こんな大きなところに来たことは無かった。悠真は学校もほぼ不登校で基本的に家で(やつ)の相手をしていたからだ。 「じゃあ、僕が悠真に合いそうな物を適当に揃えるよ。色が気に入らなかったりしたら教えてね」 サラっと唯月が悠真の髪を撫でた。一瞬手をあげられるかと思った悠真は思わず目をぎゅっと瞑る。 その姿が痛々しく、唯月は眉を寄せた。 「・・・触んな」 悠真の口から出たのはつよがり。 唯月は苦笑をしながら、他の商品棚をまわった。悠真も一応後ろを着いていく。 普通の幸せとは何なのか。 きっと、こういうことを言うのだろうが如何せん悠真は分からない。むず痒さと憎しみとが混ざりあってムカムカする。 新しい間口での生活は慣れないし、明日から始まる中学生活は上手くいく気もしない。そして、自分の気持ちも報われる気がしなかった。 「αなんて、みんな一緒だ」 小さく呟いた声は誰の耳にも入らない。

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