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第5話
結局、兄は助からなかった。
警察から現場検証の結果をチラッと聞いたが、やはり台所の電子レンジから出火したようだった。俺の予想通りだった。
――俺のせいだ……。
俺が殺したのだ。たった一人の家族を――いつも優しかった大事な兄を、俺が殺してしまったのだ。
もう二度と兄には会えない。謝ることも、恩返しすることもできない。胸が張り裂けそうで、頭がおかしくなりそうだった。いっそのこと、俺も死んでしまおうかと思ったくらいだ。
だがある時――何のきっかけかは忘れたが――俺は悪魔のようなことを思いついてしまったのだ。
もしかしたら、兄を蘇らせることができるかもしれない――と。
***
ただの厨二病的発想で思いついたわけではない。俺には俺なりの、ちゃんとした根拠があった。
人間の心には、論理・感情・直感・感覚という四つの機能がある。そのうち論理と感情は合理的機能、直感と感覚は非合理的機能と呼ばれていた。俺が必要としているのは今のところ合理的機能だけなので、ここでは論理と感情に絞って話を進める。
合理的機能――論理と感情には、刺激と反応の間に明確な因果関係がある。
特に感情の場合、他人から褒められたい、求められたい、という基本的な欲求が根底にあって、馬鹿にされたりいじめられたりすれば、こちらも防御反応が働いて攻撃的になったりする。逆に相手に親切にされたりすれば、こちらも好意を持つようになるのだ。
つまり「感情の動き」には、論理同様一定の法則がある。
何が言いたいかというと、「こういった法則性があるものならば、人工知能プログラムを組み立てることが可能なのではないか」ということだ。
感情はあくまで合理的機能だから、極めて高い論理性を持ったAIを開発できれば、感情を模倣することは不可能ではない。そこに「思い出」となる過去のデータをインプットさせれば、生前の兄そっくりのAIが出来上がるのではないか。
いや、絶対にできる。やってみせる。
その日から俺は、ロボットやプログラミングの勉強を始めたのだった……。
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