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第6話

 兄が貯めておいてくれた資金、それと何かの保険金(この辺りのことは無頓着だったので、今でもよくわかっていない)……等々、しばらくは食うに困らない金が集まったので、俺は思い切って単身渡米した。十五歳の時だ。  このまま日本で勉強を続けてもたいした成果は得られないし、そもそも日本の教育システムに、自分は合わないだろうと思ったからだ。  兄の墓参りを気軽にできなくなるのは残念だったが、遺影は大切に鞄に入れていたし、目的のためならそんな小さなこと気にしていられなかった。 ***  アメリカに渡ってすぐ、俺はキャラハン夫妻の養子となった。  別にそこまでしなくてもよかったのだが、俺が未成年であること、形だけでも両親がいた方が大学入学等の手続きが楽なこと……等々、いろいろとメリットがあった。それで俺は、大学では「ケイト・キャラハン」と名乗ることになった。  キャラハン夫妻はどちらも大学教授で、どちらかというとやや浮世離れしている人たちだった。その分、俺の才能にもいち早く気付き、俺の研究を応援してくれた(ただし、兄を蘇らせるためとは言っていない。あくまで、ロボット工学の研究という建前を貫いた)。  兄にもう一度会いたい。会って謝罪して、もう一度二人きりで平穏な暮らしをしたい。  その一心で、俺は渡米して七年間、ロボット工学の研究をし続けた。 ***  俺が二十二歳になった頃、ようやく兄のアンドロイドが完成する兆しが見えてきた。人工知能はおおよそエラーなし、兄の身体となる機械パーツもほぼ完成していた。  あとは全部組み立てて起動させるだけだ。  ――もうすぐだよ、兄さん。  逸る気持ちを押さえながら、俺は実験台の上で丁寧にパーツを組み立てていった。間違いがないように何度も確認し、人型ロボット――兄のアンドロイドを作っていく。  そして最後の螺子パーツを締め、ドキドキしながら起動させた。  パソコンを立ち上げるのと同様、数秒間待った後で、俺は恐る恐る声をかけた。 「兄さん……?」  ロボットはパチッと目を開けた。意外なほどなめらかな動きで上半身を起こすと、実験台の上でこちらに首を向けてきた。  そしてにこりと微笑んで、こう言った。 「やあ、慧人。久しぶりだね」  俺は言葉が出なかった。その代わり、目からはボロボロ涙が溢れた。  兄・和人がアンドロイドとして蘇った瞬間だった。

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