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第7話

 それから俺たちは、郊外に家を購入して自宅兼ラボを作った。そこで二人で暮らすことにした。  幸せだった。確かに兄は生身の身体ではなかったが、思考回路は兄そのもの。兄の性格に合わせて何度もプログラムを調整した甲斐があり、これといったエラーは起きなかった。  むしろ身体が機械である分、疲れることもないし睡眠をとる必要もない。定期的なメンテナンスや充電が必要なだけで、それ以外は生前の兄と何ら変わらなかった。 「兄さん……俺、あの時のことをずっと謝りたくて」 「いいんだよ、もう。こうしてまた会えたんだから、僕は十分幸せさ」  そう言って、兄は生前と同じ笑顔を向けてくれたものだった……。 ***  そうして二年が経った。俺は二十四歳になった。  兄との暮らしは快適で、俺は何不自由ない生活を送っていた。自分の自宅がラボになっているから研究もし放題。隣には大好きな兄がいてくれるし、誰にも邪魔されることはない。俺にとっては、ほとんど天国みたいなものだった。こんな生活がずっと続くのだと思うと、本当に嬉しかった。  ある日、とあるパーツを組み立てている最中、俺は螺子が足りなくなっていることに気付いた。 「兄さん、俺今から螺子買って来るよ。だからしばらく留守番頼む」  そう言って出掛けようとしたのだが、何故か兄はこんなことを言い出した。 「いや、買い物なら僕が行くよ。お前は研究の続きをしてて」 「えっ……?」  意外な反応だった。  俺が「留守番頼む」と言えば「わかったよ」と答えて素直に従ってくれたし、俺が言ったことに意を唱えたことは一度もなかった。何でも「はいはい」と言ってその通りにしてくれた。  だから、ここで「買い物は僕が」と言い出すのは予想外だった。彼が自分の意見を口にしたのは初めてだったのだ。  ――珍しいこともあるものだ。  この時の俺はそこまで深く気にすることはなかった。兄の思考回路は「弟思いの優しい人物」に設定したはずだから、これも「弟を思うがゆえの発言だったのだろう」と軽く考えていた。代わりに買い物に行くくらい、人間だったら誰にでもある行動だ。 「そうか、ありがとう。じゃあこれと同じ螺子を買ってきて欲しい。ついでに、牛乳二本もお願いできるか?」 「うん、いいよ。急いで行って来るね」  そう言って、兄は一人で出掛けて行った。そして螺子と牛乳以外のチョコレートやスナック菓子等もしこたま買って帰ってきた。  言われたもの以外の余計なものまで買って来る。今思えば、それもプログラムにない行動だった。  それでも俺はおかしいとは思わなかった。AIが自分で学習し、知能をつけていくことは不思議なことではない。何より、より人間らしい行動が増えていくのなら万々歳だと思ったのだ。  最初はロボットっぽかった兄も、徐々に人間らしくなってきている。それは俺にとっては非常に喜ばしいことだった。身体つきに目を瞑れば、思考回路は兄そのもの。それだけでも十分な成果だと思っていた。

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