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第9話
その後のことはよく覚えていない。ただ、声が枯れるまで泣いたり叫んだり……そんなことをしても兄は俺を離してくれなかった。兄はこのまま俺を家に閉じ込める気なのだと、今更ながら悟った。
プログラムは修正できない。自力で外に出ることもできない。誰かに連絡をとりたくても、常に兄が側で見張っている。八方塞がりだった。
だけど、よくよく考えてみればこれも全て俺が招いたことなのだ。こうなったのも全て俺のせい。俺が兄を死なせなければ、そもそもこんなアンドロイドなど作ることはなかった。兄を蘇らせようなどと思わなかった。
俺は何もかもが未熟で、兄がいない人生なんて考えられなかったのだ。兄が死んだ時、俺の人生もとっくに終わっていたのだ。
***
だからせめて、今度こそ全てを終わらせたい。俺が初めてしまったことだから、俺の手で幕を引きたい。
この秘密は墓場まで持って行くつもりだが、もし万が一中身を読んでしまった人がいたら、何も見なかったことにしてマイクロチップごとデータを破壊して欲しい。
***
兄さん、最期まで勝手なことをしてごめんなさい。
俺はあなたの死を受け入れられなかった。あんな形であなたを死なせてしまって……その現実を受け入れたら自分がおかしくなりそうだったんだ。「絶対に蘇らせる」という信念に縋っていなければ、気が狂ってしまいそうだったんだ。俺は天才でも何でもない、ただの脆弱な人間だったよ。
でも、あなたのことを愛していたのは本当だ。あなたを困らせてばかりだったが、それでもあなたのことは一番大切に想っていた。
だからもし許されるのであれば、俺はあなたの隣で眠りたい。
※小平慧人の手記はここで途切れている。恐らく、この後例の爆発事件を起こしたのだと思われる。
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