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第2話

僕の一つ下の妹。黒崎双葉(くろさきふたば)は、Ωだった。 けれどそんなの、僕には関係なかった。 別にΩだって構わない。だって僕の妹であることには変わりないのだから。 もしΩが原因で双葉が虐められるような事があれば、αであるこの僕が助けてやる。周りの奴等を敵に回しすことになっても、僕だけは絶対に双葉の味方だ。 そう思っていたほどに、僕は双葉を可愛がっていたし。愛していた。 僕の可愛い妹で、大事な家族。 Ωとかαとか、そんなもので兄妹の絆は壊させない。 ーーはずだったんだ。 あぁそうだ。僕が悪かったんだ。僕の考えが甘かったんだ。 僕が双葉から目を離さなければ、僕がずっと双葉の側についていれば……。 尾白了史とかいうクソ野郎なんかに、双葉は……。 「クソッ……クソッ!!」 尾白了史。二十七歳。α。 外見も中身もクソ野郎で、周りからの評判も悪い男だったらしい。 αという特権を使って毎日色んな女と遊びまわったり、βやΩから金を巻き上げたりとやりたい放題。 周りの人達が口をそろえて「どうしてあんな奴がαなんだ」と言っていたくらいだ。 そんなクソ野郎に、ある日双葉は連れ去られ。そして半年間監禁されていた。 日が経っていたおかげで薄くはなっていたらしいが、身体には暴行されたような痕が残っており。何度も性交された形跡もあったらしい。 監禁に暴行、そして強姦。 きっと双葉は、このまま生きていく事に絶望してしまったのだろう。 尾白の家に警察が突入した瞬間。双葉は台所にあった包丁で、自分の腹を突き刺して自殺してしまったらしい。 双葉が死んで残ったのは、のうのうと生きている犯罪者の尾白と、大事なものを失って嘆き悲しむ僕達家族。そして、僕の中で溜まっていく憎悪だけだった。 「どうして双葉が死ななきゃいけなかったんだ?どうして僕の妹が狙われなきゃいけなかったんだ?」 双葉がΩで、尾白がαだから……なのか? 「なんで……」 しかもその後。警察に捕まった尾白は、何故かたったの懲役一年で済んだらしい。 妹を監禁した挙句。暴行強姦までした奴なのに。どうして警察も世間も、αにはこんなに甘いんだ。 「許さない」 僕は、この受け入れられない現実に絶望し。この不平等な世界の摂理に怨みを募らせた。 「尾白了史を、絶対に許さない」 日を重ねるごとに膨らんでいく憎しみ。 しかしその感情はそう簡単に吐き出せるものでもなく、ただただ沸々と溜まっていくばかり。 このままではきっと、自分が壊れてしまう。 そう思った時だった。 「ねぇねぇそこのお兄さん。良い話があるんだけど~~」 ある日気晴らしにと思ってふらふらと繁華街をうろついていると、明らかに怪しげな男が、透明な袋に入った小さな薬を僕にチラつかせながらこう言ってきた。 「実はねこの薬。性を変えられるっていう凄く貴重な薬なんだけど……買わない?」 「性を……変える?」 「あぁ。この薬を一粒飲むだけで、βならΩかαに、Ωならαに、そしてαならΩに性が変わるって代物さ」 「なにそれ」 そんな薬があるなんて、勿論知らないし。聞いたこともなかった。 僕が歩いていたその繁華街は、薬の売買が多いと噂されていた場所だったが。どうやら僕はその標的にされてしまったらしい。 「ねぇどう?自分に使ってもいいし、なんなら誰かにあげたっていいし!」 男はニコニコと薄気味悪い笑顔を崩さず。僕だけを一点に見つめてくる。 そのあまりの押しの強さに一瞬冷静さを失ってしまった僕は、つい「いくら出せばいいの?」なんて馬鹿の事を聞いてしまっていた。 それからは勿論相手の思うつぼで、そのまま男に言いくるめられてしまった僕は、結局その薬を五千円で購入してしまった。 こんな小さい薬一つで五千円とかどう考えても詐欺としか思えなかったが、今はとにかくあの薄気味悪い男から離れたかったし。正直双葉を失ったばかりの僕には、金なんてどうでもよくなっていた。 それにもし、本当にこの薬で性を変えられるとしたらーー。 「αは、Ωに……」 薬を握りしめ、僕は決断した。 もしもこの薬が本物であればーー。 尾白了史を、妹と同じ目に合わせてやると。

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