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第4話 処女か…?

「……なぁ、心桜」 兄が軽く伸びをした後、両手を横に広げ、背もたれの上に腕を掛ける。 僕の真後ろにあるその腕が、若干気になってしょうがない。 「お前さ、……別れた女とは、シたことねぇの?」 「……」 「正直に答えろよ」 いきなりの核心── 解ってて、わざと言ってる。 僕の口から、言わせようとしている。 いつの間にか番組は終わり、水着姿のキャンペーンガールが爽やかな笑顔を振りまくCMが流れていた。 その水着の白と、肌色、そして揺れるポニーテールの黒だけが、視界の端にぼんやりと映り込む。 「………したよ」 「ハハッ。中坊の癖して、マセてんな。このクソガキが。 ……早くも童貞卒業かぁ?」 「……」 口元を歪め、一瞬で兄の目が鋭く変わる。 まるで獲物を追い詰めた、黒豹のように。 「それとも、処女か……?」 言うか言わないかのうちに──兄が迫り、僕の肩を掴んで強く押し倒す。 「──!」 勢いのまま、ソファの座面に頭と背中を強く打つ。 両手首を乱暴に掴まれ、そこに縫い付けられれば……逆光で陰になった兄の双眸が、やけに鋭く光る。 せめてその視線からは逃れたくて。 無表情を貫きながらも、僕は顔を横に倒し、片側の首筋を兄に晒す。 「………ハッ。なに、女みてぇな反応してんだよ。キショいだろ」 歪んだ唇。 不意に緩む、兄の手。 瞬間、サッと腕を引き抜く。そして兄を警戒しながら、両肘だけでズリズリと移動し上体を起こす。 「……冗談だっつーの」 「………」 とても冗談なんかには思えない。 あんな光景を見なかったら、只の悪ノリだと処理できたかもしれないのに…… 夕食前──中々下りてこない兄を呼びに部屋まで行った時…… 少し開いたドアの隙間から、あんな光景を見せられて。 ……僕は、どうすればいいんだよ。 「………」 背もたれに身体を預け、項垂れる。 ……でも…… もし、僕が目撃したと知ったら……? ゾクッと身体が震える。 見なきゃ良かった。 知らなければ、『普通』でいられたのに……… 「……コイツらキモいな」 いつの間にかCMは明け、番組が始まっていた。 リアクション芸人が、ターゲットにした俳優に顔を寄せつつ、一方的に捲し上げながらの……軽いキス。 「……」 ──キモいのは、兄貴の方だろ。 何で、弟のハメ撮り動画を見ながら、オナってたんだよ……

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