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第8話 早くしろ

「どうだ。勃ったか?」 僕の視線に気付いた兄が、ニヤついた顔のまま手を伸ばす。僕の股間を布越しに触れ、確認するようにギュッと握り締める。 「お前、兄妹モン好きだろ」 「………別に」 否定すれば、執拗に揉んでくる。 「硬くなってんぞ」 そりゃ、……そうされたら生理的に…… 「何だ、その顔は。 違うっつーなら、脱いで証拠見せてみろ」 「……」 ああ、もう本当に。 あの時目撃なんかしなかったら……ただの屈辱的な行為(いじめ)だと、受け止められたのに…… 言われるがままに立ち上がり、カーゴパンツを下着ごと摺り下ろして前を晒す。 半勃ちにも満たない、肉茎。 「……なんだ、お前の。随分とちっせぇな!」 ギャハハッ、と下卑た声と顔つきで笑い、僕を蔑視する。 「そんなんで、よく彼女に突っ込めたなァ。浮気されたのは、満足できなかったそのチンコのせいじゃねぇの? ……しかも剃毛()ってるとか、悪趣味すぎんだろ」 「……」 得意の(なじ)り声。 シャツの裾をギュッと摑み、俯いたまま引っ張り下げる。 「なァ。……自分でソレ弄って、大きくしてみろよ」 「………」 ……ほんとにコイツは、クズだ。 最低のクズ。 どうせ同じクズなら、まだ元彼の方がマシだ。 こんな事ならさっき、さっさと誘いに乗ってしまえば良かった─── 胡座を掻き、両手を後ろに付いたでかい態度の兄。その目の前で、僕は握っていたシャツの裾をゆっくりと捲り上げる。 そこから覗いた肌には、まだ癒えていない──無数の傷跡。 ……殴るなら、早く殴れよ。 いつもみたいに。骨が折れるぐらいに。 首を絞めてもいい。 カッターで切り刻んで、身体中、血だらけにしたっていい。 何なら刺したって構わない。 ……暴行される度に、いつも思う事がある。 やるなら、ちゃんと殺してくれ。 息の根を止めてくれ。 これで、最後にしてくれ─── 「……」 ──だけど。 性欲を満たす道具にだけは、絶対成り下がらない。 死んだって、好きにはさせない。 アンタにだけは、抱かれてやるもんか── 「……早くしろ、心桜」 カラーボックスに置かれた、デジタル電波時計。 チラリと見れば、十一時を回る所だった。 ……あと少し…… あと、少しの辛抱だ。 指先が、小刻みに震える。 竦んでしまう両脚。 シャツを捲る手とは反対の手で、自身の下半身に手を伸ばし、剥き出しのシャフト部分を握り込む。

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