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第9話 被食者
指示に従い膝立ちし、シャツの裾を口に咥える。
肉茎の根元まで皮を伸ばして押さえると、もう片方の手で竿を摑み、裏筋を中心に何度も刺激を与える。
………屈辱的だ。
こんな姿を見られるなんて、惨め以上の何物でも無い……
「……声、出せよ」
「………」
「喘いでみろ」
こんな状況で出るかよ。
……僕は、変態じゃない。お前みたいに。
「さっきの女も言ってただろ。『あーん、お兄ちゃん。気持ちいい』ってよ」
………っざけんな……
カッと頭に血が昇りそうになるのを、歯を食いしばって耐える。
ドクドクと熱が下半身に集中し、否が応でもソコが屹立してくる。
その反応が面白いのか。
小馬鹿にしたように、兄がニヤニヤと口元を歪めていた。
しかし、その瞳の奥に広がるのは、底無しに冷たく深い闇。
その瞳に一度 囚われれば、僕は追い詰められた獲物──ただひたすらに怯える、被食者。
そうだ。
この瞳だ……
いい獲物 を見つけた時の、捕食者の瞳──
──僕が小学二年生の頃。
兄が突然、豹変した。
何がキッカケだったのか。それは今でも解らない。
両親の留守中。当時、年齢差もあったせいで、僕より大きな体格をした兄は手加減を知らず……有無を言わさず気絶するまで、僕に殴る蹴るの暴行を繰り返した。
顔中が腫れ、体中が軋んで痛み、鼻血は止まらず……
肋骨にヒビが入り、丸く踞って苦しむ僕を上から見下ろした母が一言──
『……まぁ、随分と激しい兄弟喧嘩だこと』
腫れの引かない顔のまま、何故か父のお酌をさせられ……やたらと僕の太腿や尻を触る父が、耳元で囁いた言葉──
『……心桜は可愛いな。
精通したら、もっと気持ちいい世界を教えてやろう』
──この家は、異常だ。
このままだと僕までオカシクなる。
狂いそうになる頭を抱え
布団に潜り込んで身を縮め
毎日やって来る『明日』に怯えていた。
そして、朝が来る度に
絶望と眩暈と吐き気に襲われ
それでもまた『今日』を何とかやり過ごす。
当然学校での僕は浮き。
数少なかった友達は全員離れ。
周囲から『暗い』『キモイ』と遠巻きにされ。白い目で見られ。
………虐めの対象になった。
友達のいない僕が行動する範囲なんて、たかが知れていて。
外出するとしたら、その殆どがツ○ヤだった。
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