13 / 19
第13話 慣れるよ
『……綺麗だよ、心桜』
彼が、カミソリで僕の下の毛を剃る。
一糸纏わぬ姿の僕。その前に膝立ちし、慎重な手つきで。
それを見下げながら僕は、交わるよりも何よりも……羞恥を感じていた。
『君のお兄さんは、今日から赤の他人だ。──僕が、君の″お兄ちゃん″になるよ。
だから心桜……これからは僕の事を、″お兄ちゃん″って、呼んで欲しい』
『………うん』
優しく抱擁され、言われるがままに、僕は──『お兄ちゃん』と彼を呼んだ。
これが兄弟プレイだなんて、思いもしなかった。
僕の心を癒やしてくれる行為なのだと、信じて疑わなかったから。
恋人として僕を抱きながら──時として、兄から受けた事のない優しさや愛情も注いでくれて……彼が二つの役割を担ってくれているのだと思ったら……素直に、嬉しかった。
『心桜。……今日は、うちに来ないか?』
それは、彼と出会ってから二カ月を過ぎた頃だった。
いつもは待ち合わせ場所で落ち合い、レストランで食事をして、そのままラブホテルに直行するという流れだったけれど。
……まさか彼の家に行けるなんて、思ってもみなくて。
『……うん』
嬉しかった。
舞い上がってしまう程の高揚感。
蜘蛛の糸を摑んで上ってきていいよと、彼に許可を貰ったような気がして。
食事をしている間、そわそわと落ち着かない。
その様子にクスッと笑った彼は、恥ずかしくて目を伏せた僕を和ませようと、柔らかな視線で包み込んでくれた。
多分、この時が一番幸せだったと思う。
このまま彼と一緒に暮らしていけるような……そんな淡い期待を抱いてしまったから。
高層マンション。
ホテルのロビーのように、煌びやかなエントランス。そこに僕なんかが入っていいのかと、足が竦む。それを察してくれた彼が、戸惑う僕の手を掬い、しっかりと握り締めてくれた。
導かれるまま、一緒にエレベーターへと乗り込む。
『緊張、してる?』
『………え……、うん』
『すぐに慣れるよ。もしここに、住んでくれたら……だけど』
繋いだ手が恋人繋ぎに変わり、しっかりと握られる。
『……』
ずっと、欲しかった言葉──
僕を、あの地獄から救い出してくれる……魔法の言葉。
ともだちにシェアしよう!