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第13話 慣れるよ

『……綺麗だよ、心桜』 彼が、カミソリで僕の下の毛を剃る。 一糸纏わぬ姿の僕。その前に膝立ちし、慎重な手つきで。 それを見下げながら僕は、交わるよりも何よりも……羞恥を感じていた。 『君のお兄さんは、今日から赤の他人だ。──僕が、君の″お兄ちゃん″になるよ。 だから心桜……これからは僕の事を、″お兄ちゃん″って、呼んで欲しい』 『………うん』 優しく抱擁され、言われるがままに、僕は──『お兄ちゃん』と彼を呼んだ。 これが兄弟プレイだなんて、思いもしなかった。 僕の心を癒やしてくれる行為なのだと、信じて疑わなかったから。 恋人として僕を抱きながら──時として、兄から受けた事のない優しさや愛情も注いでくれて……彼が二つの役割を担ってくれているのだと思ったら……素直に、嬉しかった。 『心桜。……今日は、うちに来ないか?』 それは、彼と出会ってから二カ月を過ぎた頃だった。 いつもは待ち合わせ場所で落ち合い、レストランで食事をして、そのままラブホテルに直行するという流れだったけれど。 ……まさか彼の家に行けるなんて、思ってもみなくて。 『……うん』 嬉しかった。 舞い上がってしまう程の高揚感。 蜘蛛の糸を摑んで上ってきていいよと、彼に許可を貰ったような気がして。 食事をしている間、そわそわと落ち着かない。 その様子にクスッと笑った彼は、恥ずかしくて目を伏せた僕を和ませようと、柔らかな視線で包み込んでくれた。 多分、この時が一番幸せだったと思う。 このまま彼と一緒に暮らしていけるような……そんな淡い期待を抱いてしまったから。 高層マンション。 ホテルのロビーのように、煌びやかなエントランス。そこに僕なんかが入っていいのかと、足が竦む。それを察してくれた彼が、戸惑う僕の手を掬い、しっかりと握り締めてくれた。 導かれるまま、一緒にエレベーターへと乗り込む。 『緊張、してる?』 『………え……、うん』 『すぐに慣れるよ。もしここに、住んでくれたら……だけど』 繋いだ手が恋人繋ぎに変わり、しっかりと握られる。 『……』 ずっと、欲しかった言葉── 僕を、あの地獄から救い出してくれる……魔法の言葉。

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