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第15話 真相
『大事な話がある』
『……五分だけでもいい』
──あんなに″弟″がいながら
なんでまだ僕に、執着するんだ──
リベンジポルノまでして……
『心桜……その事なんだけど』
「──!」
………は、っ……
僅かに開いた唇から、息が少しだけ漏れ……すぐに空気中の酸素が一気に吸い込まれる。
「……ごほっ、ガハ、ゲホッ……、ぅ″、……はぁ、ハァハァ……」
じん……と痺れる脳内。真っ暗闇のそこに、白い点のようなものがチラチラしながら増え繋がっていく。
………ヒュー、ヒュー、
息をする度に喉が鳴ってしまうのを何とか抑え、何度か咳き込んだ後、無理矢理にでも呼吸を整える。
「……やっと気付いたか」
上空から降ってくる声。
ここが兄の部屋で、兄に襲われた事がぼんやりと思い出される。
意識が蘇えると共に襲いかかる、身体の痺れや痛み。次第に強くなっていく、ドクドクと脈打つような心音。
「………はぁ、はぁ、はぁ……」
シャツの前は捲れたまま。
薄く瞼を持ち上げれば──兄が僕の顔の左右に両手を付き、冷たく僕を見下ろしていた。
「勝手に気ぃ失ってんじゃねぇよ。………焦ったじゃねぇか」
「………、」
嘘だ。
こんな事で僕が死なないって解ってて、わざとやったんだ。絶対。
……だけど……
意識を失った状態の僕に、手は上げてないようだった。
僅かではあるけど……兄の瞳から底無しの闇は消え、怒のオーラも弱まっている。
もしかしたら、このまま解放してくれるかもしれない。
上手くいけば、だけど。
ローテーブルの上にあるノートパソコン。
彼とのセックス動画は終わっていたようで、部屋の中に静寂が戻る。
「……気になってんのか、あの動画。
何で俺が持ってるかって」
僕の視線を辿った兄が、口元をニヤつかせてそう言い放つ。
「………うん」
どうせエロ動画でも検索してたら、たまたまヒットしただけだろ──そうは思ったものの、ここは素直に頷いてみせる。
「先週、ツ○ヤに連れてった時、お前に頼んだろ。DVDを返却して来いって。
そん時、明らかに挙動不審で、お前の後を付け狙ってる奴を見かけてよ──」
「……え」
彼、だ……
「後でソイツを取っ捕まえて、店の裏に連れ出してぶん殴って。
奪った所持品を漁ってたら、……ソイツの携帯から出てきたんだよ」
「……」
「お前のだけじゃねぇ。
まだ下の毛も生え揃わねぇ、クソガキとのセックス動画も、わんさか出てきたんだぜ」
「……」
………そう、か。
はは。……なんだ。そういう事か……
彼が僕と接触したのは……逃げた僕に執着してたんじゃない。
単に盗られた動画を、僕を使って取り返したかっただけ………
「──見るからに変態面してんだろ、あの野郎。
お前さぁ、よくあんなのとヤったよなァ」
下卑た笑い声。
僕を覗き込む兄の眼が、再び深い闇の色へと変わっていく。
「……何だお前。その目は。
そんなに良かったのか。あんな変態野郎とのセックスがよ」
鋭く尖っていく眼。
その瞳の奥に宿ったのは──妖しげに濡れて光る、劣情。
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