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第4話

 そのあと何回か「とり、くおう、とり」を試したけど、鳥はもらえなかった。  べとべとする甘くて黒いやつとか、口に入れると土みたいにぽろぽろするのばかり。 「あーあ、腹減ったなぁ」 「何が違うんかな。とり、くお、とり! とり、くお、とり! って完璧だろ?」 「うん、間違いない。とり食えるはずだ」  でも駄目だった。だから今、ねばつく両手をお互いに舐めてきれいにしながら作戦を練っていた。  そのはずなのに、あいつがやたら丁寧に指を舐るもんだからくすぐったくて仕方ない。ちゅぱ、と音がして人差し指に吸い付かれた。  舌でしごき上げられる。 「も、やめ! そんなに吸っても何にも出ねーよ」  恥ずかしくなって手を引っ張ると、ちゅ、と音がしてあいつの口から指が離れた。なんでそんなに『残念、もっと吸いたかったのに』みたいな顔すんだよぉ。不満げなあいつを見ていたら、夜の風が変わった。あっちから吹いてたのが、こっちからになる。毛が無い肌に直接あたると、毛穴がきゅきゅきゅってなる。だからニンゲンは服を被るんだな。  もう「とり、くおう、とり」が聞こえなくなってきた。とりはみんな食べられたのかもしれない。俺たちだって食べたいのに。お腹がすいて、あいつのほっぺたについた甘い粉を舐めいていたら、遠くからかすかに鳥の匂いがしてきた。 「とりだ!」 「まだあったんだ!」  全速力で走ってゆくと、いつも車が止まらないところに、いっぱい人が歩いてる。ピカピカ、太陽みたいに明るくて、雷みたいにうるさい音がしてる。  みんなしゃべってる。あちこちから食べ物の匂いがする。音とにおいがごちゃ混ぜで方向が分かんなくなってくる。迷子にならないように手をつないで歩いてゆく。こういうところ、ニンゲンは便利だ。とりの匂いの方に歩いてゆくと、とりの匂いしかしない所についた。  そこはあったかくてまぶしかった。机にたくさん枝がさしてあって、そこにとりがついてる。モズのはやにえを集めたんだ!  机の向こうにはいい匂いの煙。その向こうに男がいっぱいいる。  見てるだけでよだれが出てくる。これが本物の「とりくおうとり」だ。やっと見つけた!  でも、向こうの男たちがじっとこっちを見てるのが怖い。 「とり......くおう、とり?」 「とり、くお、と......り」  俺たちが鳴いたのに、中のニンゲンの声が小さくて、何を言っているのか聞こえない。  目を見ながら、そーーーーーーーっと手を伸ばす。動いたらすぐに逃げ出せるように、身体を低くする。 「......やっぱこいつらじゃん? 黒猫の耳と尻尾......ねーちゃんとこにきて、お菓子もらって逃げてったフトドキモノ」 「おいおい......焼き鳥とってく気、満々だぜ......」

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