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2❥ピアス

 三人揃うCROWNとしての仕事は、近頃は歌番組での時しかない。  週一の準レギュラーだったお昼の情報番組は大人の事情で終了してしまったが、その後番組にも変わらず準レギュラーとして出演している。  しかし後番組の予算の関係で三人揃っての出演が無くなり、一名ずつの週交代出演が固定されたせいで、二人と会わない日々が何日も続く事がしばしばある。  二人も映画だドラマだに忙しく、聖南も雑誌のモデルと作曲を並行していて、三人でメシでも…がなかなか叶わない。  久々に会うと二人に必ず問われる台詞に苦笑いを浮かべて、聖南は衣装に着替えた。 「ハルと揉めてないか?」  シックで細身の漆黒のスーツに袖を通していると、すでに衣装もヘアメイクも済んだアキラがゆったりと腰掛けながら聖南を見た。  アキラの方は落ち着いた真紅のスーツである。    まだ姿が見えないケイタはドラマの現場が押していて遅れての到着らしいので、聖南とアキラの二人が先に打ち合わせに入る手筈だ。 「揉めてねぇよ。 すこぶる順調。 仲良しこよし」 「それは何よりだな。 同棲始めたらまた二人の惚気喧嘩が始まるんじゃねぇかとヒヤヒヤしてたんだけど」 「惚気喧嘩って何だよ。 新しいな」 「お前らのはそうじゃん。 そんな事で揉めてんの?内々でやってくんない?結局は雨降って地固まる、なんだろ?ってな」 「………言い返せねぇのが悔しい…」 「フッ、…だろ」  したり顔のアキラとは反対に、聖南は苦い顔をして見せた。  何せ過去の数々の事件は、聖南と葉璃による単なる惚気染みたすれ違いが主となり周囲を大いに巻き込んだ。  そんな濃い毎日を過ごしたおかげなのか、聖南が葉璃に恋をしたと騒ぎ始めてから、まさにアキラ達も聖南と葉璃を中心に生活が回っていた。  過去に衝突のあった兄弟同然のアキラが、同じく聖南をそう思っているだけに、葉璃の事も放ってはおけない存在となっている。  出来れば見せたくなかった珍事も軒並み知られてはいるが、喜ばしい。  なんと言っても、アキラとケイタには一番の理解者であってほしいと常々思っているから。 「ハルは別スタジオで収録なんだろ? Lilyとして来てんなら会えねぇな、セナ」  長机に置かれた台本を捲っている聖南に、アキラはカップに熱いお茶を注いで飲みながら視線を寄越す。  構わず聖南は、目を通した台本を読み進めた。  今日は四月からスタートした深夜帯の音楽番組で、CROWNは初出演となる。  しかも司会者があまり絡んだ事のない女性タレントで、早くも嫌な予感がしてきた。 『ケイタに俺の位置座ってもらお』  司会者である女性タレントの隣が、よく喋る聖南の場所らしいが気が進まない。  うぬぼれでも何でもなく、恋人居ます宣言した現在でも毎日のようにさり気ないボディータッチを受けるのだ。  世の女達は恐ろしい。  たとえ恋人が居ても構わないから抱いてと、視線で訴えてくる。 ……かつての憎き麗々のように…。 「ハルならもう会ってきた」 「はっ? いつの間に!」  驚くアキラをよそに、流し読みした台本をそっと机に置く。  あとはスタッフとの打ち合わせ時に話し合えば良いので、聖南も熱いコーヒーを飲もうとポットに触れた。  だがポットなど自宅にないのでボタンの位置が分からず、見かねたアキラに注いでもらう。 「あ、サンキュ。 ここ来る前に上の楽屋に呼んで会った。 すっかり別人になってやんの」 「そりゃそうだろ。 何て言ったっけ、名前…」 「「ヒナタ」だ。 マジで知らねぇ女になってたから驚いた」 「そんな変わるか? ヘアメイクだけで?」 「あぁ、別人。 声だけ葉璃で、あとは知らねぇ女」  今日で密会は何度目か分からない思い出の楽屋で待ち合わせをし、バレないように灯りは付けずに聖南は暗闇で葉璃を待っていた。  どんな「ヒナタ」が来るんだろうとウキウキだった聖南は、辺りを気にしてササッと俊敏に入って来た影を凝視した。  腰掛けていた椅子から立ち上がり、そろりと進んで灯りを付けると目線より下に居る女性と目が合ったのだが、思わず葉璃の姿を探してしまった。  そして、極めて小さな声で絶叫した。  葉璃じゃねぇぇぇ!と、地団駄を踏みながら。 「……セナ、まだ煮え切らねぇんだな」 「当たり前だ! ETOILEと掛け持ちしてんのも心配だし、Lilyは予算が無ぇのかレッスン用の素材渡してくれねぇし、葉璃がどんどんやつれてってる気がするし! てか衣装エロいし!」 「心配してんのは分かったけど、セナが不満なのは最後のだけなんじゃね?」 「いや、まぁ衣装がエロいのは分かってた事じゃん。 嫌だけど可愛かった。 メイク落とした葉璃にアレ着せるのは最高」 「はいはい。 セナは元々ハルの女装好きだからな」 「女装が好きなんじゃねぇ。 葉璃が好きなんだ! 愛してるんだ! ………あ、…うわ……もう会いてぇ。 アキラが思い出させるからもう会いてぇよ!」 「うるせぇな、楽屋なんだから声落とせ。 あんま大声でハルハル言うな」  ぐっ…と言葉に詰まった聖南は、勢い余って握っていたカップをぐしゃりとしかけた。  アキラが「落ち着け」と言ってくれなければ、危うく衣装が汚れて使い物にならなくなるところであった。

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