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『続いて披露していただくのは、CROWNの皆さんでーす!』 「こんばんはー」 「こんばんはー」 「よろしくお願いしまーす」 『CROWNさんの登場で会場が揺れております! 凄まじい人気ですね』 「そんな事ないっすよー、……って言うと嫌味に聞こえるか」 「セナならいいんじゃない?」 「セナに謙遜は似合わねぇ……」 「じゃあ言うよ。 「当たり前だろーが!まだまだ歓声足んねぇよ!?お前らの声ってそんなもんか!?もっとドーム揺らせよ!地響き鳴らしてみろよ!」、……くらい言っていい?」 「それは言い過ぎ」 「言い過ぎ」 『ほ、本当に揺れと歓声が大きくなりました……! この会場にはセナさん信者の方々が大勢いらっしゃるようで……!』 「セナの信者がこんなに居るわけないっすよ」 「居ない居ない。 絶対居ない」 「いやいや何言ってんの、アキラにケイタ。 それは分かんねぇじゃん。 他のアーティストのファンを装った俺の信者が、ドッキリ目的でここに集結してるかもよ」 「そんな事あるはずねぇだろ。 さすがにここまで大掛かりなドッキリするかよ」 「ほんとだよ。 ドーム貸し切るのいくらかかってると思ってるの?」 「え? 俺ツアーの指揮取ってるから正確な値段知ってるけど言っちゃっていいの?」 『それは勘弁してください! 私が上から怒られちゃいます! ……気を取り直して、進行させていただきますね。 本日、CROWNの皆さんのあとに披露の予定でした、ヒロイン役の霧山美宇さんが体調不良により出演を見合わせる事となりました。 そこで代わりに披露していただけるのが……?』 「事務所の後輩が務めます」 「それが誰なのかは、本番までのお楽しみだよー」 「よっ、ケイタ。 匂わすねぇ」 「セナ、黙って」 『聞いたところによりますと、一昨日急遽その話が決まったそうですね?』 「そうなんですよ。 霧山さんもギリギリまで出演の意思があったと聞いてます。 でも体が第一ですからね」 「防ぎようが無えから悔しいだろうな」 「事情が事情なので、後輩に無理を聞いてもらったって感じっす」 「おぉ、アキラ簡潔に説明したじゃん」 「一分でいいからセナはお口チャックしてよ」 『本日CROWNの皆さんには、これから歌っていただく話題のドラマ主題歌、そして第二部にもご出演いただきます』 「「「ありがとうございまーす」」」 『CROWNの皆さん、今日も息がピッタリですね』 「一致団結感ハンパないでしょ〜」 「てか俺、リハから飛ばしててもう汗だくなんだけど」 「セナはやたらと動き過ぎなんだよ」 「スーツが重い」 「汗で?」 「そう」 「汚なっ」 「汚なっ」 「汚くねぇよ! 俺の汗は果物果汁並みにいい匂いなんだぞ!」 「ちょっとセナ、俺と霧山さんの渾身の力作ドラマについて何も紹介できなかったんだけど」 「セナの汗の話題でな」 「それはごめん! Blu-RayBOXが発売されるらしいんで、よろしくな!」 『あはは……! 皆さんの掛け合いはいつも面白いですね。 ──それでは、霧山美宇さんの代役は一体どなたなのか、テレビの前の皆さんには期待してご覧いただきましょう。 CROWNの皆さん、スタンバイよろしくお願いします』  本番中なのに臆してる様子なんか微塵も見せないで、三人は楽屋と同じようなテンションと和やかさで会場を大いに沸かせた。  頭からモクモクと機関車みたいに湯気が出てたはずの俺は、聖南達の和気あいあいとした掛け合いに笑ってしまい、おかげでほんの少しだけ緊張が治まった気がする。  三人が一緒の現場だと、安心感がまるで違う。  スタンドマイク前に三人が並ぶ。 向かって右側がアキラさん、左側にケイタさん、中央に聖南だ。  さっきの楽しげな雰囲気をさらりと消して、ドラマのストーリーに沿ったムードを作り上げる。  それを一瞬で、三人ともがやってのける。  すごいな……。 みんな、リハーサルの時より何十倍もキラキラしてる。  さっきまでどよめきが凄かったお客さん達も「CROWN」のパフォーマンスに釘付けで、時折黄色い歓声が上がる程度だ。  聖南の歌声が好き。 三人の美しいハモりが好き。 激しく踊るCROWNも好きだけど、スタンドマイクに向かって歌う姿は何だか色っぽくてドキドキする。  昨日から、緊張とは違うドキドキが何回も襲ってきて心臓が忙しいよ。  こんな事考えてる場合じゃないんだけど、俺はどうしたって舞台袖から聖南の背中を見てしまう。  すらりと背が高いモデル体型の聖南は、どんな衣装も着こなすけど今日のホストみたいなチャラいスーツもキュンキュンしちゃうくらいカッコいい。  会場の中にどれだけの "聖南信者" が居るのか分からないけど、……勝手に鼻高々。  聖南が初めてCROWN用に書き下ろしたポップスとバラードの融合曲は、主旋律に聖南自らが弾いてるピアノのメロディがイントロからアウトロまで繰り返し流れる。  サビだけが手話で、あとはやわらかなケイタさん考案の振付け。 アキラさんの見た目通りなクールな歌声と視線に骨抜きになった客席が、時々神秘的に彼のイメージカラーである赤一色になる。  たった一曲、いや登場しただけで会場をCROWNの世界にしてしまう三人を見ていると、頭から湯気なんて出してる場合じゃないと勇気付けられた。  司会者の人が代役の名前を明かさなかったから、ほんとにブーイングが起こったらと思うとすごく出にくい。  でも……いつだって俺を応援してくれるお兄さん達が、かっこいい背中を今、見せてくれている。  大サビ後、息の合った振付けの合間に聖南が一瞬だけ袖にいる俺を見て口角を上げた。 「────っ!」  曲のイメージがあるから最後まで笑顔を見せなかった聖南が、ほんの二秒、俺にだけ笑い掛けたんだ。  恋人がトップアイドル様だと、いつどこでキュンっとさせられるか分からない。  がんばるよ、聖南。  たった今見せてもらったから。  ステージに立つアイドルとしての聖南を、しっかりこの目に焼き付けたから。

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