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 奥にたっぷりと注がれた精液を、聖南が二本指で器用にかき出している。  壁に手を付いてお尻を突き出す格好なんて恥ずかしいから自分でするって言ったのに、聖南は全然聞く耳を持たない。  行為のあとは必ず膝が笑う。 どれだけ壁にもたれ掛かっても、長時間は立ってられない。  聖南はそれも分かった上で、俺のお腹を支えている。  ───何だかすごく、いじけたような表情で。 「……上目遣いやめろっつの」 「ん、……そんなの……してない……」 「自覚して、葉璃。 そんな顔見せるの、俺だけにしろよ、マジで……」 「そ、それを言うなら聖南さんこそっ」 「俺? 俺は上目遣いなんてしねぇよ」  湯船から湯を掬い、ざぶんと頭からかけられてクスクス笑われた。  聖南には効果てきめんな上目遣いを、わざとやってる事くらい俺だって自覚してる。  下手なウソをついても聖南にはお見通しで、あげくに「俺より背が高えアイドルってあんま居ねえんだよ」とニヤニヤされたから、俺は聖南から風呂桶を奪ってやり返した。  やったな、と満面の笑みを見せる聖南も、充分可愛いと思うんだけど。 いや、何にも取り柄のない俺より、聖南の方がぜんぶ兼ね備えてる。 「聖南さんは、かっこよくて綺麗で可愛いの、何とかしてくださいっ」 「それ全部葉璃の事じゃん。 何言ってんの? 俺に当てはまるのはかっこいいだけ」 「……自覚が無い……!」 「葉璃ちゃんもな」 「………………っっ」  俺は真剣に言ってるのに、あっさりと言い返されて終わるいつものやり取り。  聖南の中心部は直視すると照れちゃうくらいまだ元気いっぱいだったけど、今日は何故かそれ以上獣になる事は無かった。  後始末だけじゃなく、俺の髪からつま先までを丁寧に洗われて、湯船にちゃぷんと入れられる。  俺も洗ってあげると言ったのに、聖南は、 「いや……せっかく我慢してんのに生殺しになるじゃん。 今日は遠慮します。 明日はよろしく」 ……と、意味の分からない事を言って苦笑していた。  後にベッドに入って抱き付かれてから、その理由が判明する。 「……俺もな、ちゃんと葉璃の体を気使いたいんだよ。 今日はあり得ねぇくらい体力も気力も使ってるだろ、葉璃」 「え、……さっきの、そういう意味だったんですか?」 「他に何があんだよ」 「………………」  ケーキは朝食べる事にして、正解だった。  聖南の優しい気使いに胸がジン…と熱くなる。  今日は朝から頭から湯気を出しっ放しで、一つとして失敗出来ない任務を前にずっと気を張っていた。  おまけにドームという巨大なステージで、大勢のお客さんとたくさんのカメラに囲まれてのパフォーマンス。  上がり症な俺にはあまりにも敷居の高い出番が三つもあって、それだけでも充分ヘトヘトな上にLilyの騒動。  たった二時間くらいの間に色々な事が起き過ぎた。  それらぜんぶをポンと忘れてしまってたくらい、たくさんの思いを一度に味わった。 「聖南さんに背中トントンされたら、すぐ眠れちゃいそうです」 「寝ちまえ。 葉璃が体力回復してくれないと、俺も困る」 「……どう困るんですか」 「それ言わせんの? 葉璃ちゃんのえっち」 「なっ!?」  聖南の腕の中でキッと弱々しく睨み上げると、すかさず軽やかに唇を奪われる。  恥ずかしい。 照れる。 このいきなりのキスは、……慣れない。 「そういや、アイツらどうなったんだろーな」 「……Lilyですか?」 「あぁ。 てかごめんな。 葉璃からヘルプ出されてなかったのに、勝手に動いちまって」 「いえ、そんな……っ。 俺、聖南さんのこと惚れ直しちゃいましたよ」 「えっ♡ マジで? なんで?」 「嬉しそう……」  聖南、こういうところが可愛いんだよね。  俺の台詞一つで一喜一憂して、今は腕と足から喜びを爆発させている。  抱き締める腕の力も、足を絡ませてくる力も、聖南の声のトーンと比例していてすごく可愛い。 俺にだけ甘える聖南は完全にプライベートの「日向聖南」だ。 「だって聖南さん、俺の事を庇うだけじゃなかったです。 ちゃんと、みんなの事を考えてた。 事務所側とLilyの子達の確執?なんて、俺にはとても考え付かなかったです。 何が原因でこんな事になったんだろう、悲しいなって……それだけでした」 「俺だって半信半疑だったよ。 でもさ、葉璃がピンチヒッターになったのって、そもそも離脱メンバーの不祥事が原因じゃん? アイツら連帯責任被ってんだから、そりゃムカついてるし不満も溜まってんだろ。 吐き出し口が無いと絶対にパンクするしな」 「……ですよね」  聖南は、俺に断りもなく動いた事にちょっとした罪悪感を抱いてるらしいけど、そんな事考えてほしくない。  俺は嬉しかった。  芸能事務所に所属するタレントの先輩として、俺だけじゃなくLilyのみんなにも、SHDのお偉いさん達にも、中立な立場でものを言ってくれたから。  重苦しい雰囲気の中、聖南の背後で黙って聞いてた俺は、誇らしかった。  やってはいけない事を叱りながら、根本を変えようとする聖南の台詞一つ一つにグッときた。  俺を抱き締めて首筋に鼻を埋めた聖南は、今はすっかり甘えモードに入ってるけど言ってる事は立派だった。 「俺がスキャンダルで事務所から謹慎命令出た時な、アキラとケイタが「俺らも連帯責任だろ」っつって幹部連中に食って掛かったんだ。 ……Lilyと俺達の差って何だ?……って考えた時、やっぱ事務所との関係とかメンバー間の絆とか、そういうもんがあってのグループなんじゃねぇの?と思った。 考え改めてくれるといいけど、そううまくいくかは分かんねぇ」  そうなんだ……そんな事があったんだ。  派閥を作る傾向にある女の子同士のグループ内では、聖南達みたいな絆はそう簡単に生まれないかもしれない。  でも、大事な事だよね。  俺と恭也も固い絆で結ばれてるからこそ、何があってもお互いに頑張ろうって奮起出来る。 何かあったら、その時は二人で乗り越えようねって、わざわざ言葉にしなくても互いにその気持ちを持ってる。  Lilyのメンバーみんなにも、聖南の言葉が胸に響いてると信じたい。  俺がターゲットになってるからじゃなくて、聖南の言動は彼女達のこの先のアイドル生命を左右するほど重要な助言だったように思う。 「……アキラさんとケイタさん、自分から連帯責任を買って出たんですか?」 「そうなんだ。 俺を謹慎させるくらいなら、自分達にきた仕事も全部キャンセルしろってブチギレ。 俺のスキャンダルで二人にはかなり迷惑かけてたのにな。 ……すげぇ照れくさかった」 「……いいですね、……三人の絆……」  芸能界の荒波をくぐり抜けている聖南達は、こんなにも温かい絆がある。  ただ仲良しなだけじゃない。  Lilyのみんなが忘れてしまってる大切な事を、俺も改めて聖南から教わり直した。  他の人にはちょっと見せられない、甘えん坊を炸裂させた聖南に俺の首筋をはむはむされながら、だけど。

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