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… … … 「葉璃! ……葉璃! 葉璃!」 「…………?」  翌朝、ただでさえそんなに寝起きが良くない聖南が、俺の名前を呼びながらめちゃくちゃ怒っていた。  リビングや書斎を走って移動する聖南の足音が聞こえて、寝ぼけながら洗面所で歯磨きをしていた俺はその声で一気に目が覚めた。  一体何事かと、俺は何も考えずにひょいっと扉から顔を覗かせる。 「聖南さーん、おはようございます。 俺ここですよ。 どうしたんですか?」  すると、俺と目が合うなりキッと目尻を吊り上げた聖南がのしのしと歩いてきて、……一言目がこれだ。   「なんで俺に黙って居なくなんの?」 「……えっ?」 「起きたら葉璃が居なかった。 俺、寂しかったんだけど」 「えぇぇっ?」  そんな、……い、居なくなるって、ベッドから出ただけだよ。  しかも寝室からはすぐの洗面所に居て、歯磨きしたらシャワーでも浴びて目を覚まそうかなって、久しぶりの休日にワクワクしてただけ。  今日は聖南も一日お休みだって言ってたし、気持ち良さそうに寝てるところを朝から起こすなんて出来なかった。  聖南の優しい気使いであれからすぐにグッスリと眠った俺は、昨日の疲れを引き摺る事なく動けてる。  ほんとはもっとエッチしたいって、俺の腰にずーっとあたっていた聖南のものが訴えてきてたけど、我慢してくれた。  俺には特別優しくて甘い聖南には、朝一番に「昨日はありがとうございました」ってお礼を伝えようと思ってたのに……。  口の中をすすいで振り返ると、盛大に拗ねた聖南が勢いよくぎゅぎゅっと抱き付いてきた。  その勢いがあんまり強くて、持ってたコップから水が溢れて俺も聖南もびっしょりと濡れてしまう。 「むぁっ……ちょ、っ……聖南さん! 俺うがいしてたからびしょびしょに……っ」 「知るか。 慰めて、葉璃。 俺寂しかった。 葉璃が居なくなったら生きていけねぇって言ってんだろ。 何回言えば分かんの? 離れるなよ、葉璃……」 「えぇ……俺は歯磨きしてただけですよ」  そんな大袈裟な……と言い返す冷静な俺は、抱き付いてくる聖南の向こうにある棚に、歯ブラシとコップをしまった。  それから大きな子どもの背中をよしよし、トントンっと擦って叩いて、宥めてあげる。  悪い夢でも見たの?なんて聞いてみたところで、返ってくる台詞は大体分かる。  綺麗な顔をこれでもかと歪めて、「葉璃が居なかったからだろ!」と寂しかったアピールを強化するんだよね。  ほんとに、可愛くて困った人だ。  この家に俺と居るときだけ、『CROWNのセナ』がどっかに行っちゃうんだから。 「はーるちゃん。 体力回復したみたいだな?」 「さ、さぁ?」 「休憩欲しかったらおとなしく俺について来い」 「………………っ」  怒って、拗ねて、最大限に甘えん坊をぶつけてきたかと思えば、いきなり獣の目をして俺をドキッとさせる。  大きなタオルを二枚手に取り、ギラギラした目で「ついて来い」と言われた俺は否応なしにときめいた。  甘くてとろとろな聖南も好きだけど、たまにしか見せない強い物言いにキュン…となる俺って変なのかな。 「あ、ごめん。 ついて来て、葉璃ちゃん」 「そんな……言い直さなくても良かったですよ。 聖南さんの命令口調って、結構……好き、です」 「うわ、何それ。 朝勃ち中の俺にそんな事言っていいの?」 「あ、あさだち……! ほんとだ……っ」  手を引かれてベッドルームに連れ込まれると、聖南はすぐにあれやこれやと準備し始めた。  言われて見てみると、聖南の股間がたしかにもこっと膨らんでいる。 男の生理現象にしては、聖南の動きが機敏だ。  ベッドに腰掛けた聖南の隣に、そこから目が離せない俺もちょんと座ってみる。  シャツを脱いで上半身を顕にした、聖南の首元に在るシルバーのネックレスがキラッと光った。  やらしい。 なんてやらしいんだろ、聖南。  視線も、俺の手を握ってくる大きな手のひらも、微かに香るいつもの大人な匂いも、ぜんぶが色っぽいなんてズルイ。  俺は、釘付けだった。  いつの間にか聖南の表情が穏やかになってる事にも気付かないで、俺は、───。 「やーっぱ葉璃には敵わねぇな。 一言で俺の機嫌治しちまうなんてもう……」 「舐めたい!」 「……は、?」 「舐めたいです! 聖南さん、舐めさせて!」 「えっ、あ、いや、……はっ?」  俺はベッドから降りて、聖南の足元に正座してお願いした。  予期せぬ俺の淫らな懇願に、ローションのボトルを掴んだまま聖南は固まってしまい目を丸くしている。  さっきまでの勢いはどうしたの。  「そんなに言うなら舐めろ」くらい、言ってくれてもいいよ。 「お願いっ! 聖南さん!」 「だめ! それはしなくていい!」  いつものように、聖南は及び腰で俺から離れようとする。  すぐにでも快楽を欲しているはずの中心部をさっと隠して、俺の視界から遮った。 「聖南さん、昨日言いましたよね! 俺の言う事何でも聞いてやるって!」 「言ってねぇ! あ、いや…………言ったか……?」 「言いました! 俺の望みはこれだけです!」 「葉璃……もっと高望みしろよ……」 「だって聖南さん、いつも舐めさせてくれないもん! こんな時じゃないと……っ」 「マジでダメ。 嫌だから拒否ってるわけじゃないんだからな? 悪い事させてる気になるって俺ずっと言ってんだろ?」  それは耳にたこが出来ちゃうくらい何回も言われてるから、そんな事分かってるもん、としか返せない。  ……どうしたら舐めさせてくれるんだろう。  下手なりに絶頂を迎えさせてあげる事もあったし、いざ咥えてみたら気持ち良さそうに天井を仰ぐし、色っぽい吐息は漏らすし……ほんとは嫌いじゃないと思うんだけどな。  とろとろで甘々な聖南は、俺の髪を撫でて「落ち着け」と言ってくる。  聖南を意味深に見詰めて、お願い光線を出してみたけどこれもダメだ。 「葉璃ちゃんはそんな事しなくていい」 「………………」  ちゅ、っとやわらかなキスをくれる聖南が、俺にはどこまでも優しいから罪悪感を抱いちゃうのかな。  ───そっか、分かった。  ちょっと危険なやり方だけど、聖南の性格を誰よりも把握してる俺は閃いてしまった。

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