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『聖南さんとずっと一緒にいられますように』  今年のお願い事もやっぱりこれにした。  一回目が不埒極まりなかったから、ちゃんと神様にごめんなさいして、改めてお願い事をし直すチャンスをくれた聖南に感謝した。  俺は何にも用意出来なかったのに、聖南は今年もネックレスをプレゼントしてくれた。  寝る時以外は肌見放さず着けてる去年のを外そうとすると、「二連で付けておかしくないのを選んだ」と言われて鏡の前に立たされ……何だかちょっと照れた。  鎖骨の間に光る、聖南からの二つのプレゼント。  俺も何かしてあげたい。  形に残るもの。 身に着けられるもの。  何がいいかな……って考えながら、聖南に抱き締められて背中をトントンされると一つも案が浮かばないまま寝てしまっていた。  昨日は食事する以外ずっとベッドの上だったし、今日からまた忙しない日々が始まると思うと寂しい気持ちになる。  聖南と過ごす時間はほんとにあっという間だ。  まぁ、……エッチばかりしてるんだけど。 「……ふぁい」 『おは! ハルベロス!』  枕元で鳴る着信音がうるさくて、寝ぼけながらスマホを耳にあてがう。 朝から元気いっぱいな声もうるさかった。  相手が誰だかは分かったけど、起き抜けだし何て言ったのか聞こえなくて何秒間かフリーズする。 「……は、はる、はるべ……? ルイさん……?」 『ハルベロスや! 今日のあだ名』 「はるべろす……? ぷっ……あはははは……っ!」  何それ何それ何それ……! ギリシャ神話に出てくるアレの名前みたい!  いつにも増して意味の分からないあだ名に、珍しく俺は爆笑してしまった。  それを昨日とか一昨日とかから考えてたのかなって思うと、もっと笑えた。 『おぉ! めちゃめちゃウケてるやん! こんな笑てくれたん初めてやんな?』 「な、なんか……っ、ダメ、ツボ入って……! あははは……っ」 『なんや嬉しいわ。 てかハルベロス、一昨日誕生日やったんか?』 「はい、……ふふ……っ、そうです」 『そーかそーか。 知らんやったからお祝い言うの遅なったわ。 おめでとう』 「え……っ」 『なんや。 俺がおめでとう言うのヘンか?』  名付けた本人も嬉しそうで、だったらいいやと遠慮なく笑っていたところに急に真面目な雰囲気になる。  まさかルイさんが俺の誕生日を祝ってくれるとは思わなかった。 ……というより、ほんとにルイさんは俺へのあたりが弱くなった。  今も慣れない態度の軟化に、笑い過ぎて溢れそうだった涙を拭いながら言葉を濁す。 「い、いや……ルイさん、……いや何でもないです。 ありがとうございます」 『今日は朝から撮影入ってるからな、いつも通り事務所に迎えに行ったらええの?』 「あ、……はい、よろしくお願いします」 『オッケー! ほなまた後でな』  はい、と返事をして、いつもの癖でスマホを枕元に置く。  ルイさんにはヒナタを庇ってくれた恩もあった。 冷静とは言い難かったけど、Lilyのメンバー達を真剣に怒ってくれて衣装が返ってきたのはルイさんのおかげと言っても過言じゃない。  正直、出番前なのにヒナタを追って楽屋まで来てたのは驚いたし、ちょっと怖いと思った。  好きにならないでほしい、とまでは思わないけど、そこまで追い掛けられるといつ影武者がバレちゃうか分かんないから、俺はこれからもっと気を付けないといけない。  あんな事があると、ヒナタへのルイさんの下心がどんどん膨らんで余計な事にまで首を突っこんできそうだもんなぁ……。 「ルイ?」 「あっ、聖南さん。 おはようございます。 そうです、今日は朝一で撮影入ってるんでした」  時間を確認しベッドの上で伸びをしていると、眼鏡を掛けた聖南が「おはよ」とやって来て優しく頭を撫でてくれた。  書斎で仕事してたのかな。  眼鏡聖南さん、今日もキラキラでインテリでカッコいい。 「葉璃があんなに笑ってるの久々聞いた」 「あぁ、……ふふふふっ……」 「何? 何なんだよ。 かわいーけど妬くぞ」  すでにヤキモチを焼く寸前の仏頂面で、ほっぺたを摘んでくる聖南の手をきゅっと握ってあげると、少しだけ表情が和らいだ。  さっきのあだ名を思い出すとまたツボにハマって、聖南と手を繋いだままお腹を擦る。  ……なんでこんなに面白いのかな。 聖南にもいつも「葉璃の笑いのツボ分かんねぇ」って揶揄われるし、あだ名よりも俺の方が変なのかも。 「聞いてくださいよ。 今日の俺のあだ名、 "ハルベロス" なんですって」 「ハルベロス? またそんな変なあだ名か」 「毎日毎日よく飽きないですよね。 俺、ちょっとだけ面白くなってきました。 今日はどんなあだ名なんだろーって」  ルイさんは、俺に対する態度がいつしか変わって揚げ足取りみたいなのも少なくなり、下心があったのか無かったのか当然のようにヒナタを守ってくれた。  何より、ダンスに関して尊敬出来る部分が見えてきちゃった今、ルイさんの第一印象を引き摺る理由が無くなった。  ETOILEの新メンバーになるかもしれないっていうのも、今はどちらかと言うと期待感の方が大きかったりする。  聖南に似た抜き感のある振りをこなすルイさんと踊るの、楽しみだなって……そこまで思えてきちゃってる。 「…………葉璃ちゃん」 「はい?」  ベッドを降りた俺の背後から、聖南が抱き締めてくる。  肩に顎を乗せて体重をかけてくるこれは、聖南が甘えたい時の行動その一だ。 「俺のこと好き?」 「はい、もちろん大好きです」 「あんまルイと仲良くするな。 勝手な事言ってんの分かってるんだけどな、……身が保たねぇ」  「俺カッコ悪りぃ」と呟いて、今度は耳たぶをはむっと甘噛みされる。 ぎゅっと腕に力を込められて、分かりやすいヤキモチを全面に出す聖南の甘えたが心地いい。  ほんとに勝手な事言ってるよ。  仮にも今ルイさんはCROWNのバックダンサーなんだよ? 大塚の所属ではないけど、仕事仲間なのにそんな事言うなんて先輩としてどうなの?  ───なんて、思ってても俺は口には出さない。  バックダンサーと俺のマネージャーを兼任しているルイさんは、俺と四六時中一緒に居る。  元々が嫉妬深い聖南がそれを容認してる事自体、めいっぱい我慢してるんだって俺は分かってるから。 「ルイさんと仲良くなった覚えはないですよ」 「……俺にはそう見えるんだよ。 俺、来月から帰りが遅くなりそうだから心配なんだ」

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