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 ルイさんの目を見ていると、何か……言いたそうだと思った。  考えないようにしていても、やっぱりおばあちゃんの事が頭から離れないのかもしれない。  身寄りはおばあちゃんだけだって言ってたし、このルイさんの事だから友達にもきっとそういう話はしない。  CROWNのバックダンサーに抜擢されていながら、ETOILEの加入メンバーの候補にも上がってるルイさんだけど、あまり気が進まない様子なのは見てれば分かる。  今はアイドルとしてデビューするとか、そういう事を真剣に考えられないのも仕方ない、……よね。 「あの、……ルイさん」 「なんや」 「……「俺の見んでいい」って、さっき言ってたじゃないですか。 やっぱりETOILEに加入するのは嫌、っていうか、今は無理……ですよね……?」 「あー……」  ズバッと聞いてみると、やっぱりルイさんは苦い顔をした。  二人がけの高級な革張りのソファが二つあるのに、俺はなぜかルイさんの太ももの上。  降りようとすると「何してんの」って腕を掴まれる。 あんまりゴネてルイさんの本心を聞けなくなるのも、またこちょこちょされるのもかなわないから、俺はおとなしくしていた。  振り返って目が合った俺に、真面目モードなルイさんがフッと苦笑する。 「嫌っていうかな……。 俺が入ったら、この一年で創り上げてきたハルポンと恭也のETOILEの色が変わってしまうやん」 「………………」 「ぶっちゃけると、最初はめちゃめちゃ嫌やって、気乗りしてなかった。 社長にもセナさん達にも色々言い訳してたんよ。 ETOILEに入りたくないのは、俺の色と二人の色が合わんし、そもそものダンススタイルが違うしってな」 「ダンススタイル……?」 「俺は元々遊びでブレイクダンス始めたんよ。 路上で仲間らとワイワイやるのが楽しい、そんな程度」 「………………」  そ、それであれだけ動けちゃうの……?  俺が泣きべそかきながら覚えた、CROWNの難易度の高いダンスをあんなに簡単そうに踊ってるのに?  相澤プロのスタジオに行って春香達と踊ったmemoryのダンスも、二日で覚えきってたよね?  ルイさんはただただダンスが好きで、その道のプロを目指してるんだと思ってたけど違うのかな。  俺を足に乗っけたまま、紅茶のペットボトルに口を付けるルイさんがさらに思いを吐露する。 「この世界おったのなんか十年以上前やし、今さら声掛かるとも思てなかった。 しかも、事務所の猛プッシュで鳴り物入りでデビューした甘えん坊やと、一緒にグループ活動なんかようせえへんって」 「……ひどい……」 「ごめんって。 その意識は変わったんやから凹むなや。 社長がハルポンの付き人せぇって言うた意味が今なら分かる」 「…………?」  あ、……ルイさんが微笑んでるの、初めて見た。  肩まで伸ばした赤茶色の髪をかき上げたルイさんは、初対面の意地悪だった頃から見た目は何も変わらない。  でもこんなにも印象が違って見える。  大塚社長の思い付きは、双方に良案だとは言えなかった。  それが今じゃ、俺はルイさんの秘密まで抱える仲になっている。 「ハルポンは根暗で、卑屈で、それなのにダンスには真剣に向き合うてて才能もある。 面白いヤツやなって思てるよ、今は」 「…………面白いヤツ、……」 「セナさんには言うたんやけど。 俺が画面越しに見てたハルポンが、まんまハルポンやった。 先入観でハルポンを決め付けてた俺が悪い。 それだけの事や」  少しずつ態度が軟化していったルイさんの心境の変化を、こんなにダイレクトに聞けたのは嬉しいけどちょっとだけ照れくさかった。  俺は根暗で、卑屈。 無謀にも聖南の背中を追うために変わりたいと思ってるけど、まったく進歩が見えない根っからのネガティブ。  周囲に甘えたいと思った事も、守られたいと思った事もないから……成長してないと言われて悲しくなった。  だから、ルイさんが俺をそういう風に理解してくれたのは、ほんとに意味がある事だと思った。  もしかしたら、"仲間" になるかもしれないから。 「じゃあ、あの……ETOILEの……加入は……?」 「せえへんよ。 ハルポンには話したやんか。 今はマジで、……気持ち的にな。 CROWNのバックダンサーしてんのも、好きなことではあるんやが正直しんどい。 あっ! これはオフレコやで! チクらんといてや!」 「………………」  誰にも言ったりしないよ。 おばあちゃんの事で頭がいっぱいなのは分かったから。  当たり前だよ。  だって、……育ててくれた唯一の家族が、……。 「それより見て見て。 俺の推し」 「あ、っ……!」  思いを聞いて何も言えなくなった俺に、何の前触れもなく見せられたのはヒナタの写メだった。  ルイさんのスマホのアルバム内には、自宅のテレビ画面にヒナタが映ったと同時に撮ったらしい、画質の荒い写メが何枚もある。  俺を背後から包むようにして、それをひたすら見せてくるルイさんの表情は見えないけど、話題を変えたかったにしては声が弾んでいた。 「ヒナタちゃん、マジで可愛いやろぉ〜? こないだの特番の時な、俺手振ってもろたんよ。 嬉しかったなぁ……今の俺の生き甲斐はヒナタちゃんかもしれん」 「そ、そうなんですね……? でもこの方はサポートメンバーだって噂が……」 「そうそう! なんやLilyはメンバー間がギスギスしててヒナタちゃんイジメられてたしなぁ……あれから大丈夫なんやろか」 「………………」  はい……あのいざこざのあと聖南が殴り込み(話し合い?)に行ってくれたおかげで、あれ以来何とか実害は免れてます。  ……なんて、言えるわけない。  まさか今太ももに座ってるのがヒナタだって知ったら、ルイさんはそれはもう激怒するだろうな……。  騙してごめんなさい、ルイさん。  ETOILEに加入する気はないと、明確な理由付きで断られてしまった俺は残念な気持ちでいっぱいだ。  それと同時に、ルイさんがヒナタの熱狂的なファンである事への罪悪感もハンパじゃない。  せっかくルイさんがここまで俺を信頼してくれて、本心を曝け出してくれたのに……。

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