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20❥7※
普段から洗浄癖のついた葉璃の秘部は、彼が羞恥を覚えるほどのものでは無かった。 それでも葉璃は、こうして抱き締めている間にも聖南が心底嫌がる不安を抱えて泣く。
包み隠さず曝け出しているつもりの聖南とは違い、葉璃は唐突に〝俺が女の子だったら〟とぐるぐるし始める。
この行為も、これまで一度も聖南にさせた事が無かった。
恥ずかしいから。 女性が相手なら毎回する必要のない事だから。 醜態としか思えないから──。
卑屈とは言い難い、聖南も理解してやらなければならないはずの葉璃のそれが、嫌で嫌でしょうがなかった。
性別など関係ない、クソ食らえだと何度言っても葉璃の不安は拭ってやれず、最後の一歩を踏み込ませない恋人が、現在の心境も相まってなお歯痒い。
「もう一回いくぞー」
「えっ!? や、やだ、もうやだっ」
「四つん這いなって」
「う、ううっ、……! せなさん力強過ぎ……んっ」
「そりゃ鍛えてっからなー。 いつでも葉璃を押し倒せるように」
「ライブのため、でしょ!」
「それもあるけど。 腰浮かせて」
「んぁぁ……っっ、だめ、って、言ったのに……!」
床に手足を付かせ、濡れたパーカー越しに軽く背中を押さえて自由を奪った。
柔らかな勢いに切り替えたシャワーヘッドを再度孔にあてがい、指で双璧を分け、窄まったそこ目掛けて少しずつ温水を中に注いでいく。
「入ってくの分かる?」
「わか、る……っ、また、溜めなきゃ、……ふぅっ……だめ?」
「溜めといて。 そん中に指挿れたい」
「え!? せな、さん……変なこと、勉強してる……!」
「ずっとこれがやりたくてやりたくて。 今最高に興奮してんだよ。 分かんだろ?」
「んやっ……」
一度してしまえば許してくれると分かっていた。
前が膨張した自身を太ももに押し当てた聖南を振り返る瞳は強いけれど、押さえ付けていなくとも葉璃は自ら腰を上げて、注がれる最中にもっちりとした双璧を震わせた。
いくらでも怒ればいい。 それが羞恥紛れになるなら、どれだけ聖南に悪態を吐こうが気にしない。
葉璃のすべてを愛している聖南には、彼の成す事すべてが愛おしいのだ。
尚且つ聖南はもう、自身でさえ許せない領域の醜態を、葉璃に晒した。
ついさっきの事だ。
「これはな、葉璃。 葉璃だけにさせていいもんじゃねぇんだよ。 嫌がる気持ちも恥ずかしいって気持ちも分かるし、今まで尊重してきたけどな? 出来れば俺はそろそろ、そういうの超越した仲になりたい」
「……っ、……?」
「俺さっき、今の葉璃なんかメじゃねぇくらい恥ずかしかった」
「え、……?」
先程よりもやや多めの温水を溜めさせ、シャワーヘッドをフックにかけた聖南はローションを手に取る。
いつ噴き出すか分からないそこに躊躇なく口付け、慣らす液体で指先を濡らした。
葉璃が羞恥紛れに怒っていたのと同様、聖南も自らの醜態を自らの口で語る時は葉璃に触れていなければ難しかった。
「せな、……さん……?」
振り返る葉璃の瞳さえ見られない。
内太ももを撫で上げ、いつもより竦んだ陰嚢を揉みしだく。 背中がピクッと揺れたが、手付きを止めぬまま構わず腰にも口付けた。
「……完璧だと思ってたもんを新人に指摘されて、結果俺が折れる形になったろ。 みんなが納得のいく仕上がりにするには必要な事なんだろうけど、こうなっちまうと俺の立場が無えんだ」
「…………ん、っ」
くびれた腰を撫で回していた手のひらが、さらさらと後孔へ伸びていく。
意図的に窄められヒクつくそこに中指を挿れ込んだ刹那、会陰に沿ってチョロチョロと透明な湯が滴った。
指先が温かい。
湯船に浸かってホッと息を吐く感覚に似ている。
聖南は上体を起こし、温水と襞が纏わり付く中指をさらに奥へと進めながら、自身の体を支えるだけで精一杯な葉璃の背中に覆い被さった。
「結局は〝CROWNのセナ〟も権力に屈するんだとか、案外適当に仕事すんだとか、学歴、基礎が無えの今さら周りに叩かれちまうんじゃねぇかとか、怖くなった」
「……ふ、ぅ、っ……っ」
「俺、……今までそういうのと縁がなかったからどうしてもよぎるんだ。 この世界で生き残る自信はあるのに、俺にはまだまだ足りねぇもんがあって、この先……創作の意欲がゼロになる事だってあり得る。 俺の才能なんて、いつか枯れるか分かんねぇから」
「う、っ……」
とても向き合って語る事の出来ない、聖南の唯一の醜態を切々と打ち明ける。
小さく呻く葉璃のうなじに唇を落とし、限界まで突き入れた中指で堰き止めさせていた湯を掻き出した。
葉璃は黙って床にひれ伏している。
聖南が覆い被さっているせいで、体重を支えきれなくなった両腕が限界を迎えたのだ。
その分腰は高い位置にある。
中指を引き抜た聖南はローションのボトルを手に取ると、直からたっぷりと臀部に落とした。
そしてまた、ぐにゅりと中指を挿し込む。
ほとんど滴り落ちてしまったが、僅かに残った温水とローションが混ざり合い、内壁がトロトロというよりもサラサラした触感になってきた。
「葉璃の前で、俺が創ったもんの粗探しするってかなり屈辱的で恥ずかしかった。 でも、葉璃にならいいと思った。 ……ほんと言うと、すげぇ嫌なんだけどな」
「……せな、さん……」
聖南は自身にとっての一番の醜態を、自らの口で語った。
人間的な面ではなく、仕事に関する事だけはあまり葉璃の前で嘆きたくない。
詞や曲が上がらなくて悩むのとは違い、今回は他人に指摘されての工程のやり直しだ。
こんな事、とてつもなく受け入れたくない。 これほどまでプライドを傷付けられるとは思わなかった。
葉璃にならいいと思った──それも本音ではあるけれど、葉璃と聖南は今、種類は違えど大きな羞恥を味わっている。
じわりと中指を引き抜いた聖南が、されるがままの葉璃の体を起こして背中からキツく抱き締めた。
「……俺はな、葉璃の前では日向聖南に戻るけど、それでもやっぱカッコいい男で居たいんだよ。 葉璃に愛想つかされるのが人生最大の恐怖だからさ、俺。 あんなとこ見られたくなかったし、葉璃には常に完璧な男だって思っててほしい。 ……恥ずかしいとこなんて、マジで見せたくなかった。 葉璃も俺も、今同じ気持ちなんだって事、……覚えといて」
出しっぱなしのシャワーから流れ出るミスト状の温水を浴びながら、情けない顔を見られたくない聖南はひっしと葉璃にしがみついた。
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