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「ぅわ、ちょっ、恭也……っ?」
恭也の右手が、今度は俺の目元を隠して前が見えなくなった。
これ……誰かが入って来たら絶対ヘンに思われる。
恭也が、自分と俺の視界を遮ってさらに溜め息を吐いた。
「この際だから、白状する。 葉璃が、セナさんと付き合ってるって、聞いた時。 俺、すごく嫌だった。 葉璃を、取られたって、思った」
「え、……っ?」
「今はもう、そうは思わないけど、あの時はほんとに、……一人で焦ってた。 俺から、葉璃が、離れていくんだって。 葉璃のことを、一番分かってるのは、俺なのにって」
「恭也……」
「俺は、セナさんには、何もかも敵わない。 だから今、二人を幸せな気持ちで、見てられる。 でも今度は、ルイさんが現れた。 それだけじゃない。 加入するメンバーは、あと三人も、居るんだよ。 俺はどんどん、葉璃の中から、消えていっちゃう」
「……そ、そんな事……」
……恭也……そんな風に思ってたの? 焦ってるって、そういう意味だったんだ……。
瞳が物凄く悲しそうだったのは、親友の位置が脅かされそうな不安を感じてたから……?
「……恭也、手おろして」
「嫌。 俺いま、すっごく情けないこと、いっぱい言ったから、葉璃の顔、見られない」
「そんなことないってば。 手おろしてくれないと、この親指に噛み付くよ」
「葉璃になら、いいよ」
「なっ……、埒が明かない!」
「いまは、ほんとに無理。 お説教するなら、このままして」
「もう〜〜」
なんで噛み付くって言って「いいよ」なの?
やっぱり、拗ねちゃった男はこうなるんだよね。
とても身近に似たような人が居るから、こうなるのはなんとなく分かってた。
恭也と聖南は、考え方がほんとによく似てる。
拗ねた時にめんどくさいのも、ね。
「じゃあもうこのまま言っちゃうけど、恭也、ちゃんと聞いててね?」
「……耳、塞いでていい?」
「いいよ。 そうしたらこの手、耳にいくもんね。 目を見て話せる」
「……葉璃、頭いい」
「でしょ。 今すっっっごく頭回ってるもん」
「…………声が、怒ってる……」
「怒ってないよ。 恭也から叱られる事はあっても、俺が恭也を怒るなんてあり得ない」
「今がその時、でしょ」
……待ってよ。 そのネガティブは俺の特権であって、穏やかそのものな恭也が出していいものじゃない。
俺への異常な愛情を打ち明けるだけ打ち明けて、俺からのそれは受け取らないつもりなのかな。
心配してくれてたのも、ルイさんとの内緒話を秘密にされて悲しいって気持ちも、本当は俺じゃなくて恭也の方が〝加入するメンバー〟に複雑な思いを抱いてるって事も、ぜんぶ充分伝わった。
目を見て不安を拭ってあげようにも、頭ごと抱かれててそれは無理そうだ。
大きな手のひらで真っ暗になった視界の中、安心を与えてあげられるようにもっと恭也に寄り掛かった。
「どうしたの、恭也。 今の恭也は、焦ってるっていうより拗ねてるようにしか見えないよ。 確かに俺がいけないよ? 恭也に内緒にしてる事があるなんて、俺が逆の立場だったらめちゃくちゃ嫌だもん。 でもね、今はほんとに言えないんだ。 恭也だから内緒にしてるんじゃないよ。 これはルイさんのプライベートに関する事で、本人の承諾もナシに俺がベラベラ喋っちゃいけないって意味。 ETOILEにも俺にも恭也にも、全然関係ないことだよ」
「……そうなの? 俺を除け者に、してるわけじゃ、ない?」
「してないってば! なんで俺が恭也を除け者にするんだよ! 聖南さんの次になっちゃうけど、恭也は大切な親友で、大好きな人なんだよっ?」
ここまで根暗発言を連発された俺は、目元を覆っている恭也の手のひらに自分の手を重ねて息巻いた。
傍から見ればすごく可笑しな光景だと思う。
万が一聖南に見られたら、いくら恭也相手でも間違いなくヤキモチ焼かれちゃいそうなくらい密着してるんだから。
でもほっとけないよ、こんなにネガティブな恭也は初めてなんだもん。
もっと余裕があるときの恭也なら、絶対にこんな思考回路にはならない。
「……ほんと? 葉璃、俺のこと、まだ好き?」
「好き! 俺にとって恭也は、二番目に大事な人!」
「…………葉璃……」
勢いに任せて俺も気持ちを告げると、ゆっくり手のひらを外してくれた恭也が眩しそうに俺を見た。
数分間暗闇に居た俺も、白む視界の中に恭也を捉える。
ビックリするくらいお互いの顔が近かったけど、二人とも驚く事もなく全然気にならなかった。
だって……〝まだ〟ってどういう事? 俺は恭也と出会ってから、ずっと好きだよ。
何かから身を隠すようにいつも猫背で、誰にも素顔を見せたくないって暖簾みたいに前髪伸ばして、面白味のない根暗な俺の隣でゆっくりゆっくり世間話をしようとしてた頃から、ずっと。
今や成長著しい恭也は、俺にとって精神的な面で大きな支えになってる。 それは恭也が、俺を引っ張るために努力を重ねた結果だ。
甘えてる俺もよくないんだろうけど、恭也には分かっててほしい。
「やっと目が合った」
「葉璃、俺も好き。 俺は、葉璃のこと、一番に好き。 葉璃が俺のこと、嫌いになったら、生きていけない」
「……そこまで?」
目を細めたまま、恭也が俺の両手を握るために体ごとこちらを向いた。 動きに合わせて、革張りのソファーがキシキシッと音を立てる。
せっかくの強面イケメンが台無しだよ、恭也。
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