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「……皆さん、お疲れ様です。 聖南さん鋭いですね?」
「改めて俺たち、気持ちを、確かめ合いました」
「えー! なんかやらしいっ」
「恭也が言うとそういう風に聞こえるよな」
「ちょっ、葉璃? 何の気持ち確かめ合ったんだよ? 恭也ドヤってるけど!」
「え、何の気持ちって……ねぇ?」
「ねぇ?」
やっぱり始まった詮索に、俺と恭也は顔を見合わせた。 二人とも、言いたい事や思ってた事を打ち明け合ったから、不思議と笑顔が溢れる。
仲良しな俺たちを見たアキラさんとケイタさんが、外したサングラス片手にムムムッと眉間に皺を寄せた聖南の表情を一瞥して、吹き出す寸前だ。
「恭也、煽るじゃん」
「ハル君は分かるけど恭也がデレるって珍しいねー」
「俺の居ねえとこでどんな気持ち確かめ合ったんだよ! 葉璃も恭也も妙にスッキリした顔してるし! 二人の仲がこれ以上発展してたら俺マジで……っ」
「セナ、発展って何?」
「ハル君、セナを止めてー。 こうなるとほんとにうるさいんだよ」
確かに。 俺の隣には、ついさっきまで拗ね方は違うけど似たような感情を持ってた男が居る。
何を隠そうこの俺も、人の事は言えないくらい拗ねたらめんどくさい。
気分が良くて聖南を煽ってしまった自覚がある俺は、ケイタさんの言葉に頷いて立ち上がり、聖南に両腕を広げた。
俺も、恭也も、そして聖南も、こうしてあげたらたちまち機嫌を直す事はもう知っている。
「聖南さん、ぎゅっ」
「あっ……♡」
「落ち着きました?」
「うんうん、落ち着いたー♡ 葉璃ー♡ ん〜♡」
「おいセナ、俺らここに居るんだけど」
「最近以前にも増してハル君への愛が凄まじいよね、セナ」
「ふふっ……仲良し、いいですね」
ここに居る人達には気を使わなくていいからって、聖南は抱きつくというより俺の体を締め上げてきた。
恥ずかしいところをさらけ出し合った日以降、さらに愛情表現が濃ゆーくなった聖南の声が甘々だ。
恋人を超越出来てるのは嬉しいけど、俺はあのときの羞恥を未だに忘れられないから、複雑なんだけどな……。
「葉璃、朝送ってやれなくてごめんな?」
「わわっ……聖南さん……っ」
や、だから、みんなの前で耳にちゅってするのはちょっと……っ。
甘々な声で「葉璃」って呼ばれると、ドキドキするからほんとにやめてほしい。 聖南もそれが分かっててやってるとしか思えないよ。
「あ、あの、そんなのいいんです、大丈夫です。 イベント会場はどうでした?」
「思ったより広かったよ。 キャパ五百はありそう」
「だねー。 でも新鮮だよね、デビュー当時を思い出すなぁ」
「……セナハルの会話に入っていくなよ、ケイタ。 俺らは今透明人間になってねぇと」
「いやいや、アキラ、何言ってんの? 恭也とハル君に会うの一ヶ月以上ぶりなんだよ? 俺だって話したいもーん」
もう……っ、気を使わせてすみません、アキラさん……。
ケイタさんと恭也はニコニコだし、俺のぎゅっですっかり機嫌を直した聖南は俺から離れないし、いくら気兼ねがないからっていたたまれなくなってきた。
──コンコン。 「社長がお見えです」の秘書さんの言葉で飛び上がる。
聖南の力が緩んだ隙に、サササッと恭也の隣に戻って気配を消そうとした。
ふぅ……体温が高い聖南に締め上げられて、汗かいちゃったよ。
けれど、向かい側のお兄さん二人と左隣からは親友の優しい視線が飛んできて、肘置きに腰掛けた右隣に居る恋人からもハートマーク付きの視線が飛んでくる。
このメンバーの中では、俺はどうしても気配を消せない。 落ち着くし、現場では勇気を貰える大切な空間なのは確かだけど、俺を甘やかす人がこんなにたくさん居ると照れちゃってかなわない。
「おぉ、揃ってるな」
「おっす」
「お疲れっす」
「お疲れ様でーす!」
社長さんの登場で、三人のお兄さん達が一斉に声を上げた。
俺と恭也は、腰掛けたままペコッと頭を下げる。
デスクまでゆったりと歩む社長さんは、この大きな芸能事務所のトップに立つ人物らしくほんの少しだけ人相が悪い。 中身を知れば普通に話せるけど、知らなかったら俺はすれ違う時に回れ右しちゃいそうなくらい強面だ。
続けて、秘書さんが半月盆に湯呑みを乗せて運んできた。
うーん……やっぱり香水の匂いがきつい。
「今日集まってもらったのは他でもない。 明日の最終選考についてだ」
秘書さんの退室を待ってそう切り出した社長さんが、聖南やアキラさん達を見て湯呑みを手に取る。
シン……と静まり返った社長室に、お茶を啜る音だけが響いた。
前もって詳しい事は聞かされてなかった俺たちだけど、このメンバーが急遽集められた事で誰だって知れる。
「………………」
「………………」
「明日はスケジュールの都合で厳しいようだが、四日後のダンス試験にはアキラとケイタも審査員に加わる。 候補者五名のプロフィールと前回の試験VTRにはすでに目を通してもらっているが、今現在のお前たちの意見を聞きたい」
「幹部とスタッフ居ねぇけどいいの?」
「あぁ、今日のこれは私の思い付きだからな。 ここで意見を聞いたとて他の者にそれを漏らしたりはせん」
「……よく分かんねぇな」
意味ある?と問うた聖南に、社長さんは含み笑いだけを返した。
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