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 意見を聞きたいって、どういう意図なんだろう。  最終選考に残った候補者の人達についてどう思ってるかを知りたいのか、メンバー加入後のETOILEが五人体制になる事についての気持ちというか、意気込みを知りたいのか……。  不敵に笑っただけの社長さんの思惑を全員が探るように、社長室の時が止まる。  意見、って言われてもなぁ……。 選考基準はみんなそれぞれバラバラだろうし、そもそも俺は誰かを選ぶような立場の人間じゃない。  この先のETOILEを長い目で見た時、誰となら馬が合いそうかとかそんな風にしか見られないんだよ。  明日の歌唱試験はアップテンポとバラード、両極端な二曲で選考していく。  前回と違ってレッスンスタジオでの歌唱だから、候補者と選考人全員の前で見られながら歌う緊張感を跳ね除けないと、思うように声が出なくなる。  通常はレコーディングスタジオでの本格的な試験が最後に行われる事が多いらしいけど、今回逆なのは聖南とスタッフさんがあえてそうしたんだって言ってた。  俺は正直、もう少し候補者の人達の人となりを見たかった。 それをちょっと前に聖南に溢した時、「そのためだよ」と言われて首を傾げた事を思い出す。  極端な話、明日の歌唱試験でそれが見えるだろう事を見越して、聖南もETOILEに関わるスタッフさん達も実力の伴った人格者を仲間にしたいと考えてるんだ。  専門的な事で判断出来ない俺は、ただその考えに乗らせてもらってる、だけ……。 「さて。 まずは三人から伺おうか」  ズズッとお茶を啜る社長さんは、今の沈黙なんか大袈裟だってくらい口調が淡々としてる。  肘置きで足を組んだ聖南が、その台詞に片目を細めて「うわ……」と呟いた。 「……事情聴取みてぇ」 「セナ、事情聴取された事あるの?」 「あるに決まってんじゃん。 あ、でも一回だけな? 俺その場に居ただけなのにしょっぴかれてさ。 そん時マジで社長みてぇなツラの奴に……って、無い無い! 無いからな、葉璃!」 「えっ、なんで俺に……!」  ケイタさんと会話していたはずなのに、いきなりこっちを向くからビックリした。  一瞬だけ、なんで〝社長さん〟と〝事情聴取〟が結び付くのかなとは思ったけど、当たり前じゃん、って苦笑する聖南を見てたら納得だ。  取り繕って、俺にいい格好しようと慌ててる方が逆に変なのに。 「昔の聖南さんならあり得る話ですし、今さら驚きません。 それとも……俺に嘘吐きたいですか?」 「うっ……」 「聖南さん、俺は聖南さんの過去のヤンチャについて何か言った事なんて無いと思いますよ? どう見ても嘘って分かる嘘を吐かれる方がイヤです」 「だ、だよな、そうだよなっ? ごめん、葉璃ちゃん! あのな、俺……一回だけ社長みてぇなツラの男に事情聴取された事あるんだ。 でもこれだけは言える! 俺は断じて、警察の厄介になるような事はしてねぇからな? ちょっとやり過ぎた喧嘩はあったかもしんねぇけど、それは十年も前の事で……っ」 「ふふっ……」  慌ててる、慌ててる。  俺は、こっちの正直な聖南の方が好きだよ。  驚かないって言ってるんだから、それ以上何も話さなくていいのにどんどんボロを出す。  顔の前で両手を合わせて〝ごめん〟のポーズをした聖南を見てると、謝る必要のない事でこんなに必死になってる姿が愛おしくてつい笑ってしまった。 「………………」 「………………」  ここがどこだかも忘れて、どちらからともなく見詰め合う。 お互いの視線には「会いたかった」を乗せて、無言の会話をした。 「ゴホンッ」 「ゴホンッ……割って入って申し訳ないが、私のコレは事情聴取ではないぞ」  アキラさんと社長さんが同時に咳払いした事で、俺達は瞬時に二人だけの世界から還ってくる。  いけない……気心知れたみんなと居ると、すぐこうなっちゃう。 俺の頭を撫でた聖南も、「分かってるって」と悪びれずに笑った。 「気を取り直してもう一度聞く。 アキラ、ケイタは最終選考に残った候補者らを見てどう思った?」 「んー、……どう思ったか、ねぇ……」 「俺達の選考基準言っていいの?」 「あぁ。 ハルと恭也をデビュー前から支えてきたお前達が一番、最終オーディションのみに関わる重要性を感じているはずだ」  アキラさんとケイタさんは、まるで両極端な風貌で「うーん」と唸っている。  社長さんの言ってる事がふわふわしていて掴めない。  今それを聞いてどうなるのかな。  ここでの話は誰にも漏らさない、選考には響かないと言ってたけど……社長さんは一体、俺達からどんな言葉を聞きたいんだろう。 「じゃあまず俺から」  最初に口火を切ったのはアキラさんで、俺と恭也がさっきまで見ていたノートパソコンを指差した。 「このオーディションが始まる前から俺が思ってたのは、ハルと恭也がこの一年で築いた土台を崩さない人がいいってこと。 二人の存在感を打ち消すような人は要らねぇ」 「ほう……候補者にそのような人物が居る、という事か?」 「そこまで言及はしない。 ただ俺は、最終選考に参加はするけど二人の意見を最優先したい。 もちろんスタッフもセナもそのつもりで居ると思うけどな。 俺はもっと、第三者寄りのスタンスでいかせてもらう」  言い終えたアキラさんが、恭也と俺を順番に見て優しく微笑んでくれた。  アキラさんとは、デビュー前……いやそれよりちょっと前から面識があったけど、その時からずっと印象が変わらない。  聖南の次に芸歴が長くて、メディアでもCROWN三人の長男役を担ってるだけあって、俺達にとってもほんとのお兄ちゃんみたいだ。  スーツや警察官役がよく似合うクールなお兄ちゃんは、実は聖南の次に俺を甘やかすのがうまい。 「……ふむ、なるほど。 ケイタはどうだ?」 「うん。 今頃それ言う?ってこと、ぶっちゃけていい?」  続いて、社長さんの視線がケイタさんに移る。  すると何やら爆弾発言を予感させる台詞に、ケイタさんのやわらかな声色とは反対に社長室の空気がピリついた。

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