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25★ゴシップ2

─恭也─  映画の撮影が一段落し、次の仕事のため一旦ここで待機するよう林さんから言われた俺は、待ってましたとばかりにコンビニで買った雑誌を広げた。  それは、葉璃が最後の最後まで撮影に難色を示していた、ハイティーン向けの女性ファッション雑誌。  真冬のコーディネートに身を包んだ葉璃がおすまし顔で写ってるそれを凝視していると、だんだん顔の筋肉が緩んでくる。 「葉璃、可愛いなぁ……」  この雑誌の専属モデルとなって半年くらい、かな。  最近はユニセックスをブランドイメージとする企業が多いためか、企業側にも出版社側にもうってつけの存在だった葉璃は、デビューして三ヶ月後くらいからちょこちょこと雑誌のモデルの仕事が入っていた。  複数の媒体で、受けた順に撮影をこなしていた葉璃だけど、春頃からとうとうインタビュー等は抜きにして一社専属のモデルになった。  本人は頑なに「違う」と言い張るんだけどね……。  いつもの卑屈さで、何故か後ろに下がりながら「専属モデルだなんて、俺はそんなに大層なものじゃないから!」と顔を真っ赤にする。  でもこれは、俺には出来ない仕事。  置いて行かないで、と会えば俺にしがみつく葉璃だけど、俺だって同じ気持ち。  葉璃とあんまり会えなくて、連絡を取り合ったり会話をする時間も削られて寂し過ぎて、拗ねちゃった時もあったぐらいだよ。 「……あ、葉璃からだ」  あの一件以来、葉璃とはマメに連絡を取り合うようにしている。 というより、葉璃が気を使ってくれてるんだろうな。  葉璃の付き人だったルイさんが、とうとうETOILEの新メンバーに抜擢された。  これだけで俺はもう、焦りの境地。  ルイさんが嫌だってわけじゃないんだけど、嫉妬するのは致し方ない。  毎日、朝から晩まで、明らかに俺より長く葉璃と居られるんだよ。  羨ましくてしょうがない。  震えるスマホには、〝倉田 葉璃〟の文字。 ぼんやり眺めていてはすぐに切れてしまうのに、数秒間、名前に見惚れた。 『あっ、恭也、お疲れさまー。 今って電話大丈夫?』 「お疲れさま、葉璃。 大丈夫だよ」  あぁ……葉璃の声、一週間ぶりだ。  落ち着く。 心どころか全身が温かくなる。 『撮影中だよね? ほんとに大丈夫?』 「ふふっ……大丈夫だってば。 今日は収録あるから、もうすぐ、林さんと移動するよ。 特番で、二週空いたから、局で葉璃と会うの、久しぶりだね」 『あっ、そっか。 そうだね、うん……』 「……どうしたの? 何か、あった?」 『あ、あの……』 「うん?」  これからバラエティー番組の収録で会えるのに、わざわざ電話してきたって事は急用なのかな。  白いマフラーを巻いた可愛い葉璃を眺めつつ、スマホの持ち手を変えてページを捲る。 俺が沈黙しても、まだ葉璃は電話口で『あの、えっと……』と迷っていた。  もしかして、近くにルイさんが居て話しにくいのかもしれない。 こんなに歯切れが悪いという事は、俺に電話をかけたはいいものの、用件を語れない状況になった、と見るべきだ。 「葉璃、あとからでもいいよ。 ルイさん、そばに、居るんでしょ?」 『あ! いや、その、……ルイさんが……』 「うん」 『話せってうるさくて……俺、なんか頭の中ゴチャゴチャなんだけど……』 『は〜? なんでゴチャゴチャになんねん! 簡単な話やろっ? 恭也には言うといた方がええやろって言うただけやん!』  やっぱりそばに居たのか、という嫉妬はさておき、俺は二人の言い合いを電話口で聞く羽目になったから、また拗ねちゃいそうなんだけど。  ……いや、待って。  ルイさんが、俺に話せって言った……? なんの事? 『でも、何かヘンじゃないですっ?』 『いやいや、逆に、なんで言うてないんか俺には理解できん!』 『だって俺、ルイさんのことばっかりは考えてないですもん!』 『なっ、言うたなぁ!? さっそく新メンバーいびりか!?』 『なんでそうなるんですか! 忘れてたっていうか、そこまで緊急性はないって思ってただけで……!』 『どう考えても緊急性あるやろ! どこ探したって見つからん、セナさんの恋人がここに居るんやで!? 芸能界を震撼させる大スクープやん! 俺がそれを知ってるって恭也に伝えとくんは筋とちゃうんか!』 「えっ!?」  仲良しな言い合いに歯ぎしりしそうになっていたその時、とんでもない言葉がルイさんから飛び出した。  驚いた俺は、思わず声を荒げて二人の会話に割って入った。 「ルイさん、二人のこと、知ってるんですか!?」 『あぁ、知ってもうたで』 「なっ……い、いつから!?」 『一ヶ月……いやそんなに経たんか。 三週間くらい前やな』 『ちょっ、ちょっとルイさんっ、俺のスマホ返してくださいっ』  ルイさんが、セナさんと葉璃の関係を知った……?  しかも三週間も前に?  二人はそれで良かったの?  ETOILEの加入メンバーだから、そうせざるを得なかった……とか?  ……にしても、バレてしまうギリギリまで隠しておく手もあったはずだ。 二人の事を知ってる俺やアキラさん達が協力すれば、不可能ではない。  それを選ばず、まさに世間からしてみれば大スクープと言っていい事象を、前もって打ち明けてしまうなんて。  葉璃はもちろん、セナさんもルイさんの事を信用してるって事か……。

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