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… … …
「……え? ルイさん、今なんて……?」
まだ時間的に局に行くのは早いし、ドライブ日和だから一時間くらい車を走らせようかって提案してくれたルイさんが、社用車を運転し始めて十分後。
俺は後部座席で流れる景色を追いながら、他愛もない会話をしてた最中に突然、ルイさんの口から思わぬ台詞が飛び出した。
思わずバックミラー越しにルイさんを見詰めると、ルイさんもチラッとだけ見返してくる。
「やからぁ、トップアイドル様々のセナさんが、あんなゴッツい特ダネを正体も明かさん誰かに掴ましたらあかん言うてんねん」
「……えっ、いや、……えっ?」
聞き間違いじゃなかった。
い、いやだって、これは昨日の話なんだよね?
なんで……っ? なんでルイさんまでその事を知ってるのっ?
恭也といい、ルイさんといい、どういう情報網でそれを知ったのっ?
あまりに吃驚して、俺は口が半開きのまま運転中のルイさんの後頭部を凝視した。
いいお天気の下、呑気にドライブなんてしてる場合じゃない。 この特ダネがすでに色んな人に知られてるのなら、差出人不明の謎を暴く前に世に出てしまうよ。
愕然とした俺とミラー越しに目が合ったルイさんは、「ウソやん」と小さく呟いてあからさまにマズった表情を浮かべた。
「えっ、て……ウソやん……? もしかしてハルポン知らんかったんか? うわマジか……すまん、聞かんかった事にしてくれ」
「や、やだなぁ! る、る、ルイさんってば……! 妙な冗談やめてくださいよっ」
「ほんまになぁ! こんな不吉な冗談あかんよなぁ! ハッハッハッ……」
「は、はは……」
そうだよね、冗談だよね!
昨日起こった出来事なのに、まさかほとんど無関係のルイさんが知ってるはずないもん!
当てずっぽうで言っただけ。 また俺を揶揄おうとしてるんだ。
そうだそうだ、ルイさんだったら俺を茶化すのなんか朝飯前なんだもん。
「………………」
「………………」
都会は車通りが多過ぎて、こんな時に限って渋滞にハマる。
車が動かないのをいい事に、ルイさんが無言で振り返ってきた。
ビクッと肩を揺らした俺も、相手の嘘を見抜きたくてジッとしておく。
それはルイさんも同じだったみたいで、誤魔化しきれない下手くそな笑い声はすぐに止んだ。
「……知ってるんやな?」
「……ルイさんこそ」
「知っとる」
「俺も、知ってます」
探り合いをした結果、俺は背もたれにトサッと体を預けて脱力し、ルイさんは前方を向き直ってハンドルを握った。
ただしミラーからビシバシ視線が飛んでくる。
はぁ、と溜め息を吐いたルイさんが、脱力してる俺に向かって違う意味で吃驚したと明かした。
「なんやねん! 目ん玉ひん剥いてめちゃめちゃビックリ仰天の顔するから焦ったやんけ! 俺ヤバい事言うてもうたって! 脇汗ケツ汗ドッとかいたわ!」
「なっ……!? そんな怒らなくてもいいじゃないですかっ」
「なんで仰天したんや! 知らんのやと思うやん!」
「ルイさんが知ってる事に驚いたんですよ! だって昨日の今日ですよ!?」
「昨日出た話なんか、これ!?」
「そうですよ!」
「マジでか!」
えぇっ……! 情報が曖昧なのっ?
勢い余って肯定してしまったけど大丈夫かな……。
なぜかルイさんが持ってる特ダネを洗いざらい吐いてもらうまで、俺は安心できない。
そしてもし、今分かってる少ない情報の一から十まで知られてるとしたら、キツく、キツ〜く、口止めしとかなきゃ。
「どうしてルイさんが……知ってるんですか? これオフレコなはず、ですけど……」
「いや昨日な、大塚社長がウチに来てん」
「え!? 社長さんが!?」
「そうや。 ばあちゃんの四十九日に来れんかったから言うて、線香上げにな」
「四十九日……もうそんなに経ちましたか……」
「先週の事やで。 俺休んでた日あったやん? あの日に骨を納骨堂に持って行ってお経あげてもろた。 まぁまだ店の権利がどうとか細かい事が終わってへんし、しばらく忙しいけど」
「そうですか……。 俺も一度、ルイさんのおばあちゃんにご挨拶と、お線香上げに行かなきゃ」
「来てくれるん? いつ?」
「えっ、いつかはまだ分かんないですけど……」
会話をしていると、少しずつ車が動き始めた。 さっきとは違って、ゆっくりゆっくり流れる外の景色にあの夜のことがぼんやりと映る。
亡くなってしまったおばあちゃんが唯一の家族だったルイさん。
こうやって今明るくお話してくれてるのも、やっぱりどこか無理してるんじゃないかなと思う時がある。
乗り越えるまではいかないけど、思ってたより傷は浅いと言って平気な顔して日常を過ごすから……改めてルイさんは強いなって。
聖南もそうだけど、深い悲しみや寂しさを知ってる人はとても純粋で芯がとても強いよ。 その代わり、心の一部分に誰にも補強できない脆い部分が生まれてしまうのも、免れ得ない事だったりする。
「そうやな。 セナさんが特ダネ掴まれてるうちはハルポンも気が休まらんやろ」
「……あっ! そ、そうです、なんでルイさんが特ダネの事知ってたのか聞きたいんでした! あ、どこか止まってからでも……」
「あぁ、……」
いけない……話が脱線しちゃってたな。
しかも、このタイミングで車がスムーズに流れだした。
運転中に話を振るのはどうかと思ったんだけど、何も気にしてなさそうなルイさんは昨夜の出来事を詳細に、赤裸々に教えてくれた。
逆に俺が聞いちゃっていいのかな、と心配になるくらい──。
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