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 少しだけほぐれた穴に、勢いを抑えたシャワーのお湯がどんどん入ってくる。  俺のお尻を抱き込むように支えてる聖南が「上手だよ」って優しく声を掛けてくれるんだけど、たぶんこれに上手い下手なんか無い。  ただ溢れさせないように、入ってくるお湯をせき止めて耐える。お腹が痛くならないように時間を計算してる聖南が、「いいよ」って言うまで。 「葉璃、少し我慢な」 「うーっ!」 「分かってるって。見ねぇから。ほら、舌出して。気紛らわそうな」 「ふ、むっ……っ」  お腹が膨れてく感覚と、出したい衝動を必死で堪える。すると後ろから顎を取られて、「葉璃、舌」といつもの合図を出されたら俺は自然と口を開くようになった。  やっともらえる口付けが、ご褒美じゃなくて気を紛らわすためだとしても全然良い。  あっかくて厚い舌が俺の舌に絡まると、どんなにキツい態勢でも聖南の唇から離れたくなくなる。 「ん、むっ……ふぁ……っ」  舌を舐められてのぼせて、むちゅっと吸われて腰が揺れる。夢中で聖南の舌を追ってるだけで気持ちよくなっちゃって、締めてる穴からお湯が溢れてしまいそうになった。  漏れそうな感覚に眉間を険しくすると、それに気付いた聖南が俺の下唇をペロっと舐めてニヤついた。 「……限界? もう溜めとけない?」 「んっ……んっ……」 「いいよ、出しな」 「やっ、せなさ……っ、やだ……っ! ちゅ、してて……っ」  聖南には何にも見られたくない。聞かれたくない。我慢できなくてお尻がプルプル震えてくる。  そんなにたくさん入ってないはずなのに、お腹がたぷたぷ重たい気がして苦しい。  早く出したい……漏れちゃいそう……っ。  もうムリ、我慢できない……っ! 「せなさん……!!」 「ほら、俺の腕掴んで」 「んんっ……!」  伸びてきた逞しい腕にしがみつくと、爪の跡が残っちゃうくらい握り締めてあっけなく一回目の醜態を晒す。  その直後、聖南がすぐにキスをして紛らわせてくれるけど、自分では止められない醜態で気が散った。  さっきみたいに上手に舌を追えない。  頭がボーッとするような感覚も無くて、ただただ聖南の腕にしがみついて「恥ずかしい」という感情しか湧かなくて。 「かわいーよ、葉璃。かわいー……」 「うぅ……っ……せな、さん……」  こうして聖南がキスの合間にひっきりなしに囁いてくれなかったら、とっくに気絶してるくらいには俺は恥ずかしかった。  毎回そうだ。  なんで聖南がこれをやりたがるのか、ホントに分かんない。理解できない。  恥ずかしいところを見せ合える関係になれたら、俺たちはもっともっと深い絆で結ばれるんだって聖南は言ってたけど、お尻を洗うのはちょっと違う気がする。  お湯を注がれて、溜めて、それを三回も繰り返して同じ醜態を晒して、その度に「震えるな、大丈夫だから」っていい声で励ましてくれる聖南は誰よりも俺に甘くて優しい人だからこそ、こんなことさせたくないのに……っ。 「ん、っ……!」  唇が腫れぼったく感じるまで、キスをした。  〝絶対、見ないで。絶対、何も感じないで。そこまで俺は図太くなれないから、最低限のモラルだけは守ってほしい。〟  初めてお尻を洗われた時、キスしてれば紛れるってことを知ってから、俺はそう聖南に頼み込んだ。  興味本意で「葉璃の全部が見たいんだけど」なんてヘラヘラして言うつもりなら、すぐに聖南の家を出て行く。ここまで言い切った。  聖南は一瞬ガーンってショックを受けた顔をしたけど、じゃあそれさえ守れば洗っていいんだと曲解されてしまって、今にいたる。    約束を覚えててくれて、欠かさず守ってくれるのはありがたいよ。  でも……。 「おっと……。大丈夫か、葉璃ちゃん。今日もよくがんばったな」 「むぅ……」  肩を上下させて呼吸をする俺は、倒れ込むようにして聖南の胸にもたれかかった。  ……なんでこんなに疲れるんだろう。  聖南がコントロールする洗浄は、三回目の醜態を出し切ったあとなぜかいつもヘトヘトになる。例えるとしたら、聖南とのしつこいエッチを何時間もした時くらい。 「あの……聖南さん、やっぱりこれは俺がしたいんですけど……」 「なんで? 俺ヘタ?」 「い、いや、そうじゃなくて……」  俺に悪いと思わなくていいって、どう言えば伝わるのかな。  たしかに俺は、悲しい気持ちになりながら一人で洗ってた。  〝女の子だったらこんなことしなくてもすぐにエッチできるのに……めんどくさいって思われないかな……今は良くてもだんだん鬱陶しくなってきちゃうよね……聖南さんはもともと綺麗な女の人がタイプだし……俺なんて足元にも及ばないよ……ちょっと女顔だなって程度の男なんか……〟とぐるぐるし始めて、ネガティブが止まらなくなる。  でも聖南は、俺が男だってことを理由にぐるぐるするのだけは許してくれなくて。  不安を排除するために強引にでも俺の役目を奪ってるんだって、ちゃんと分かってはいるんだけど……。 「おい、葉璃ちゃん。まーたぐるぐるしてんな?」 「……してないです」 「てかなんで俺が洗っちゃダメなの。俺、葉璃の言う通りにしてるよな? そりゃ恥ずかしいってのは分かるよ。でもこれを見せてんのは俺にだけだろ? 俺だったらいいって思えない?」 「…………」 「葉璃とは深いとこで繋がってたいから、俺はこれからも葉璃がどんなに嫌がっても洗うよ? これは俺の……いや彼氏の……いや旦那の役目だと思ってるし」 「…………っ」  相変わらず聖南は口が立つ。  話しながら俺のことをぎゅっと抱きしめて、背中をサラサラ撫でて耳に口付けてくるところなんてホントに策士だ。俺が嬉しい気持ちになるポイントを押さえてる。  それに聖南の考えは一貫していて、その場しのぎの言葉じゃないから心に刺さるんだ。  ……いつもいつも。 「じゃ、じゃあ、もう一つ約束してほしいことがありますっ」 「ん、何?」  空っぽになったお腹をさすって、聖南を見上げた。  エッチの前にこんなに体力を消耗しちゃうのはあとに響くから、この約束事をのんでもらうしかない。  安心する言葉ばかりをくれる聖南に、分かってたこととはいえ俺も往生際が悪かった。

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