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痛てて……。
テレビ局の受付のお姉さんに会釈を返しただけで、腰が鈍く痛んだ。
出演番組と楽屋の場所を確認して、エレベーターに乗り込む。その間ずっと腰をさすっていた。
聖南ってばホントに十五分で終わらせてくれたのはいいけど、激しすぎるんだよ……。
いつ何時張ってるか分からないマスコミに怪しまれないよう、聖南とは事務所でバイバイした。
朝から充電完了したって、そりゃあもうご機嫌で仕事に行ったのは良かったけど……聖南との大急ぎエッチは慌ただしいってことを忘れてた。
事務所から局まではタクシーを使わせてもらって、今日は出演キャンセルの謝罪回りからスタートしなきゃなのに、先が思いやられる。
〝ETOILE 様〟と書かれた張り紙の前で深呼吸をして、先に恭也が来ていることを願いながら楽屋の扉を開けた。
「あ、おはよう、葉璃」
「恭也……! おはようっ」
会いたかった人の顔がそこにあった。
嬉しくて思わず駆け寄って行くと、お茶を飲んでた恭也がふわっと微笑んでくれた。その瞬間腰の痛みを忘れた俺も、ヘラッと笑い返す。
だって、強面の恭也が笑うとすっごく優しい顔になってイケメン度がグーンと増すんだよ。しかもこの笑顔、他の人は滅多に見られない。
開口一番で謝ろうと思ってた俺だけど、恭也につられてついヘラヘラしてしまう。
「体はもう、大丈夫?」
「うん……、うん……っ! ……じゃなくて、ごめんね、恭也。年末の三番組キャンセルすることになっちゃって……謝りたかったんだ。あと、……ありがとう」
「そんな……。もう、メッセージでいっぱい、謝ってるよ、葉璃」
「そうだけど……」
おとなしく寝てるだけなんて出来なかった俺は、恭也にしつこく〝ごめんね〟を送り続けた。毎日と言っても過言じゃないくらい。
その度に恭也は「謝らなくていいよ」と返してくれてた。あと、「嫌なことは全部忘れてね」というメッセージも一緒に。
事情を全部知ってる恭也だから、俺が心に傷を負ってるんじゃないかってことを気にしてるんだ。
「本当に、何ともないの? ちゃんと、寝てた?」
「うん、ほとんどベッドの上で過ごしてた。聖南さんがトイレとお風呂以外は寝室から動くなって。退屈だろうからって、新しいテレビ買ってきてベッドルームに設置されたよ」
「あはは……っ。セナさん、相変わらずだなぁ」
聖南の過保護っぷりに、恭也が声を上げて笑った。
いつもなら恭也の隣に腰掛けるんだけど、パイプ椅子だとお尻に響くからさりげなくソファの方に座って、恭也の笑顔に癒される。
俺は、ちゃんと恭也の顔を見て直接謝りたかったから、少しだけ気持ちが楽になった。
せっかくの番組出演をキャンセルするのは、いくら病気だからって新人アイドルには痛手だと思うんだ。
クリスマス特番の時みたいに恭也が一人で出ても良かったらしいんだけど、それだと恭也一人に尻拭い(俺はそう思ってる)をさせちゃうことになるし、特番は特番でも全部の番組で別歌手の歌を披露するわけにいかない。
ETOILEの曲は、聖南が俺と恭也のために作ったもので、歌もダンスも俺抜きじゃ出来ないって恭也が言ってくれたらしいんだ。
そんな恭也の一声もあっての、聖南と社長さんの〝独断〟。
俺は居ても居なくても一緒でしょってすぐに卑屈な思いでぐるぐるしちゃう性格だから、恭也が俺を必要としてくれてると思うと嬉しかった。
〝ごめんね、ありがとう。〟
だから、恭也に会ったらこれがどうしても言いたかったんだ。
当然だけど、聖南にも感謝してる。
たぶん局で俺のために一番頭を下げてるのは、聖南だから……。
「あ……そういえば聖南さん、今日ホントに来るのかな」
「ん? セナさんが、ここに?」
「うん。午後は時間あるから、来るって言ってた。収録はお昼からだよね」
「セナさん、葉璃のことが、心配なんだろうね」
うん、と頷いて少し照れる。
忙しい合間を縫って聖南が来てくれるのは、申し訳ない気持ちもあるけどやっぱり嬉しい。
しかもその話をしたあとにたっっっぷり愛し合ったから、その時のことまで思い出すと顔が赤くなっちゃいそうだ。
「来ると言えば、ルイさんも、だ」
「えっ? ルイさんがここにっ?」
「うん。午前のレッスンが終わったら、ここに顔出すって、メッセージきてた」
「えぇっ?」
俺はギョッとして、恭也から受け取って飲んでたお水を吹き出しそうになった。
何に驚いたかって……。
「恭也とルイさんって、いつの間にそんなに仲良くなったの……?」
「仲が良いかは、分からないけど。連絡先の交換をしたのが、ちょうどあの日だよ。葉璃が目を覚まさなくて、不安で不安でたまらなかった時、寝るまでずっと、話し相手になってくれて……」
「えぇっ!? そ、そうなんだ……!」
二人がそんなに仲良くなってたとは知らなかったよ!
聖南に匹敵するほど社交的すぎるルイさんと、俺と同じくらい内気な恭也が意気投合するには時間がかかると思ってたから、それはとってもいいニュースだ!
もう仲間だよねって林さんも交えてハグした時は、まだぎこちなかったから心配してたんだ。
そっか……。俺が倒れて病院で眠ってた時、恭也とルイさんは寝るまでずっと語り合ってたのかぁ……。
あの時は二日続けてみんなに心配かけちゃったもんな。
今さらだけど、そばにポジティブを地でいくルイさんが居てくれたから、恭也が落ち着いていられたのかもしれない。
それも寝るまで、恭也が沈んじゃわないようにルイさんが喋りかけて……って、あれ?
〝寝るまで〟?
恭也はたしか、待機するホテルに前日から宿泊するって言ってたよね。ってことはルイさんは恭也の部屋に泊まったの?
シングルルームだとベッドは一つしかないからそういうことだよね?
二人とも大きいから狭かっただろうな。
「……恭也とルイさん、一緒に寝たの?」
素朴な疑問をぶつけると、恭也がゆっくり立ち上がって俺が座ってるソファまで来た。
どうしたの、と見上げた俺の頭を、とっても苦い顔をした恭也から優しく撫でられ……。
「……葉璃。その妄想はちょっと、気持ち悪いから、やめてくれる?」
「え……」
なぜかやんわり怒られた。
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