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 聖南のスキャンダルに関する情報共有は、今朝葉璃に話した二つの報告のうちには入らない。  可愛い恋人が天然を炸裂させたおかげで話が逸れに逸れたが、咳払いして軌道修正した社長によって、たった今一つ目の〝報告〟が発表された。 「──え!? Lilyが相澤プロに!?」  驚愕の声を上げた葉璃は、よほど意外だったのか大きな瞳をカッと見開いた。 「あぁ、そうなんだ。セナがLilyを相澤プロの佐々木マネージャーと繋いでくれてな。例の一件で、あれからSHDエンターテイメントは事実上機能していない状況だ。後ろめたい事のある社の人間は雲隠れしようとしているのかもしれん。そんなことは断じてさせないが」 「そ、そう、なんですね……」  葉璃にとっては寝耳に水な話だろう。  なんと言っても昨年末の聖南が稀に見る多忙を極めていたのは、この件があったからなのだ。  クリスマス特番の当日、何もかもを終えた聖南が真っ先に連絡を取ったのがあの佐々木だった。  熱が出た葉璃を病室まで送ってもらい、聖南達が戻るまでの間そこに留まってくれていた彼に、すぐさまLilyとSHDエンターテイメントの現状を伝え、相澤プロに移籍できないかどうかの打診をする可能性があることを耳に入れた。  あの時点ではまだ葉璃の気持ちを聞いておらず、性急には物事を進められなかったからだ。  葉璃が一言、「Lilyがどうなろうと構わない」と言うのであれば聖南は何も動かずにいた。しかし葉璃は元来お人好しな性格であるため、こうなる事は粗方予測していた聖南だ。  事務所側に大きな問題を抱えていると知った葉璃が、「Lilyなんてどうでもいいです」などと言うはずがない。  あの翌日から、自身の仕事とは別で事務所間の騒動にも大きく首を突っ込むことになり、文字通り聖南の一日はめまぐるしかった。  Lilyのメンバー全員を集めての意思確認に始まり、SHDエンターテイメントの幹部達による移籍許可、病床に伏しているらしい社長の安否と事務所の今後等々、まったく関係が無いはずの聖南と社長は別事務所の倒産問題でてんてこまいだった。  さすがに事務所の存続云々は弁護士らに任せているが、年が明けようやくLilyに関して目処が立ち始めたので、関わった者達への報告は早めにしようと相成った。 「そっか。やっぱりそうなっちまったのか」 「まぁしょうがないよねぇ。あんな横暴な経営してちゃ、遅かれ早かれだったんじゃないの」 「それにしても相澤プロか。セナ、いいとこ選んだじゃん」 「ホントホント。あの子たちの根性叩き直してくれそうだよね、佐々木さん」  アキラとケイタが言うように、温情を見せた聖南がLilyの移籍先として真っ先に浮かんだのが、memoryが在籍している相澤プロだ。  素人同然だったスクール生達をスターダムに伸し上げた功労者は、他でもない佐々木である。彼の手腕と目利き、意外と細やかに彼女たちの面倒を見るところなどLilyにうってつけだと思った。  ただでさえ休みが無いだろう彼の仕事を増やすのは気が引けたが、佐々木ならうまくやってくれると聖南は信じ、すでに託している。 「うちはうちで、SHDエンターテイメントに所属しているタレントに声をかけている段階だ。見込みがある者に限ってはおるが、主に俳優にな」 「あれ本気やったんか」 「あぁ、もちろん。事務所に所属せずフリーで活動する手もあるにはあるが、この業界でそれは限界があるだろう。うちに入るかは否かは本人に任せるが……熱意と才能のある若い芽が、ようやっと掴んだ夢をみすみす手放さなければならんのはなぁ……。ここまで首を突っ込んでしまった以上、見て見ぬフリはできん」  聖南、アキラ、ケイタの三人は、長く付き合いのある社長の判断を素直に受け止められているが、恭也とルイ、そして葉璃はいまいち釈然としていないことが表情で窺える。  正直なところ、聖南も社長からその旨を聞いた時は「マジで言ってる?」とはじめは耳を疑った。  サポートメンバーだったヒナタの件、囁かれるLily内部の確執、そんななか突然のLilyの事務所移籍……これだけでもSHDエンターテイメントには何らかの問題があったのではと推測されるに余りある。  そのうえSHDエンターテイメントの多数のタレントが大塚芸能事務所に移籍したとなると、三社間で重大な取引があったといよいよ怪しまれる要因になりかねないのだ。  顔がきく者の多い業界には瞬く間に事実が広まるだろうが、世間はそうではない。あたかも真実であるかのように誤情報を伝えるメディアがすべてだ。  聖南の捏造スキャンダル同様、誤解されると火消しが厄介だぞと言いかけたものの、その時の聖南は口を噤んだ。  考えてみれば、社長も聖南もヒナタの件は葉璃の意思さえ固まれば時期を見て公表することに同意しているし、Lilyの移籍問題も、倒産が時間の問題であるSHDエンターテイメントの体たらくが原因だと、後々かもしれないがあらぬ疑いは晴らせるだろう。  恩義に厚い人間である社長の性根は、昔から変わらない。そうやって救いの手を差し伸べてくれたからこそ、今の聖南がある。  もしも今回、路頭に迷うことになった俳優が心機一転、大塚でのびのびと仕事が出来るようになったら……その者らはみすみす夢を諦めずに済むということになる。  大塚芸能事務所に損は無いばかりか、そうした〝若い芽〟を救うことにも繋がるならば、社長の決断は正しいと聖南は大きな理解を示した形だ。

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