「葉璃……好きだよ」 「ふ、っ……うぅっ……んぁっ……」 　葉璃の背中に体重をかけぬよう気を付けながら、聖南は自身を後孔に挿れる。 　ほとんど閉じる機会の無かったそこは、すんなりと聖南を受け入れた。腰を動かし、ずぶずぶと押し進めていく性器が葉璃の温かな襞で包み込まれる。 　これが最後だと釘を刺されたからには、この一回は最奥を諦めた。 　先端が突き当たる場所まで性器を挿入し、擦りたい衝動をグッと堪えそのままジッと我慢する。 「はぁ……あったかいな……」 「……ん、……」 　葉璃の体を抱き締め、恍惚と呟いた聖南は彼の耳をペロリと舐めた。 　快感を追わずとも、こうして繋がっていられるだけで幸せだ。 　何時間も葉璃の体を貪り、泣きの一回を終えてもおそらくこの昂りは治まらないだろう。 　葉璃が腕の中に居る。 　「疲れた」、「眠たい」、「もう無理」と涙を浮かべて訴えてはくるが、葉璃は本当に嫌なら蹴りの一つでも聖南にお見舞いし、寝室を出て行くに違いないのだ。 　渋々ながら聖南の我儘に付き合ってくれる葉璃は、とことん甘やかしが上手い。 　日常的にそうなのだから、聖南がさらに葉璃に依存してしまうのも無理もない。 「なぁ葉璃。毎日……俺のそばにいてくれて、ありがとな」 「んっ……え、……っ？」 　この幸せが当たり前だと思っていてはいけない。 　晩から朝までほぼノンストップでセックスに付き合ってくれるという点はもちろんの事、プライベートでは〝セナ〟ほど格好良くいられない聖南を、葉璃はいつも笑顔で抱き締めてくれる。 　拗ねた時、甘えたい時、もはや聖南は無意識に葉璃にすり寄って行くようになった。そんな聖南を嫌がる事なく、葉璃は目元を細めて「大きなワンちゃんみたい」と可愛く微笑んでくれる。 　甘え方が分からない聖南の突発的な行動が、いつ葉璃を幻滅させるかと思うと気が気でないのは確かだ。 　だがそれ以上に、聖南は葉璃からの無償の愛を求めていて、葉璃はしっかりとそれを返してくれている。 「葉璃……」 「……っ、せな、さん……？」 「葉璃……好き。大好き……」 　滾って仕方がなかった欲がようやく落ち着いた今、好きなだけ愛させてくれた葉璃への気持ちが溢れて止まらなくなった。 「ちょっ……せなさんっ、そ、それはずるい……っ」 「好き……愛してるよ、葉璃……」 「…………っっ」 　貫いたまま微動だにしない聖南は、葉璃の耳許で何度も気持ちを伝えた。それに狼狽えた葉璃が、心中の動揺を示すかのように聖南の性器をキュッと締め付ける。 「んっ……！」 「自分で気持ちよくなってどうすんの。動いてほしい？　ナカ切ない？」 「い、いや、違っ……そうじゃ、なくて……！」 「ゆっくり動くよ。ナカに集中してな、ゾクゾクすっから」 「ひっ……やぅっ……」 　黙って葉璃に抱きついていた聖南だが、宣言通りゆるやかに腰を動かし始める。 　聖南が内に留まった状態での静止に慣れないようで、葉璃は何度となく秘部内をキュンキュンさせては聖南の興奮を高めていた。それは、ジッとしていたかった聖南にはあまりにも艶かしい蠢きだった。 「……どう？　きもちい？」 「んっ……んんっ……な、なんか、よく分かんな……あっ……！」 「あー……葉璃ちゃん、下半身の感覚無いんだっけ」 「な、ないけど、ある……うぅっ……」 　ゆったりとした動きながら、前立腺を押し上げるように巧みに腰を動かす聖南は、枕に顔を押し付け〝いやいや〟と首を振る葉璃の後頭部を見て、「どっちなの」と笑った。 　性急に、欲望のままに葉璃を貫くのも良いが、繋がっている実感を得られる静かなピストンもたまらない。 　聖南の性器にキツく纏わりつく襞を、葉璃は意図して蠢かせていない。ただ聖南がもたらす快楽に流され、体が勝手に反応している。 　内からそれを感じ取った聖南は、嬉しかった。 　〝最後〟を通告しておきながら欲望に忠実にならざるを得なくなるとは、一層葉璃のことが愛おしくなる。 　そうして粛々と葉璃を愛し、押し寄せる波の間際のみ激しく打ち付けはしたものの、聖南はこれまでで一番静かな射精をした。 　名残惜しいが、もちろん中で達することはせず、熱い迸りは葉璃の臀部にすべて放った。 「んん……っ」 「葉璃……好き。好き……」 　うつ伏せの葉璃を再びころんと転がし、まだ微かに震えている裸体をかき抱く。とめどなく湧き上がる熱い感情を、飽きることなく葉璃に伝えた。 　彼から抱き締め返されることは無かったけれど、ここまで疲弊させたのは聖南なので不満などありはしない。 　恋人の特権を、存分に活用させてもらえた。 　それだけで満足だ。 　この後、もしくは今夜、葉璃から痛烈なお叱りや小言が下されるかもしれないけど、……と含み笑いしかけた聖南は、彼の魔性とも言える本質を見誤っていた。 「また、怒れなくなっちゃった……」 「……ん？」 「聖南さん、あの……抱っこしてくれる？」 「えっ、……うん？」 「起き上がれないんで」 「お、おぉ、ごめんな？」 　愛おしい恋人からの催促に一瞬たじろいだものの、聖南は喜んで手を貸した。 　もう少しまどろんでいたかったのだが、力無く伸ばされた腕を取り、脱力した身体を抱いたまま上体を起こす。 　「怒れなくなった」と聞こえたが、まともに飲食も休憩も摂らせず朝を迎えたので、そんなはずはない。怒られて当然だという意識はあったので、聖南はさっそくの猫パンチを覚悟した。 　しかし葉璃は、聖南に文句の一つも言わなかった。 　それどころか──。 「聖南さん、俺も……ありがとうございます」 　隙間からこぼれる僅かな陽の光が、俯いた葉璃の頬にまつ毛の影を落としている。 　「好き勝手やってくれましたね」と口をバッテンにするならともかく、予想だにしない感謝の言葉を紡いだ葉璃は、聖南にもたれかかって照れていた。 「……ありがと、聖南さん……」 「い、いや葉璃、そんなに俺のこと甘やかしちゃダメだって。「ありがとう」じゃねぇだろ、朝まで俺は……」 「こんなにヘトヘトのクタクタになっても、俺は聖南さんのことを怒れないです。聖南さん風に言うと、俺が「煽った」ってことになるんだと思うし……それで今日の「ありがとう」を取り上げられるのは、納得いきません」 「…………」 　顔を上げた葉璃の口元が、きゅっと引き結ばれている。魅惑の瞳に見詰められ、聖南は言葉を失くした。 　聖南が強いた熱烈な行為に文句を付けるのではなく、葉璃は未だ〝今日〟のお礼を言えずにいたことに不満を抱いていたのだ。 　愛し過ぎてごめん、と謝る気でいたが、それが取り越し苦労に終わったと知るや、叱られる前提で緊張していた聖南は見事に破顔した。 「ははっ……相変わらず頑固だなぁ、葉璃は」 「聖南さんこそ、俺のこと甘やかし過ぎです。俺、まだ今日……言ってないですよ？　……たぶん、だけど」 「言ってない？　何を？」 　何気なく問い返した聖南の腕の中で、葉璃がもじもじしている。 　頑固な恋人からのお礼の言葉なら、たった今聞いた。 　それ以外に、葉璃が聖南に伝えていないことなど見当もつかない。 　聖南は首を傾げ、深く俯いた葉璃の表情を窺おうとした。だが葉璃は、その表情を見られまいと両手で顔を覆い、小さな声でこんな事を言い放った。 「お、俺も、聖南さんのこと好きだよ、って……」 「……なっ！？　葉璃っっ！！♡」 　── 何だそれ。何だってんだ、その殺し文句は……！　とんでもねぇかわいさだ！ 　ただでさえ毎分毎秒ときめかせてくれる葉璃からの「好きだよ」は、聖南の心臓を数発は撃ち抜いた。 　「好きです」でなく、「好きだよ」が効いた。 　力の限り葉璃を抱きしめた聖南には、その喜びを表現する言葉がとても思い付かない。 　葉璃を愛している。 　本当に、心の底から、愛している。 　撃ち抜かれた心臓をトクトク鳴らし、互いの愛欲で濡れた腕を使って全身で愛情表現するしか、術が無かった。