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51♡⑨
戸惑いながらも、お昼を過ぎてようやくお腹が空いてきた俺は、聖南から丸ごと貰ったサンドイッチ達に手を伸ばす。
恭也とルイさんにも「食べる?」と指で示して聞いてみると、恭也は要らないと首を振っていて、ルイさんはハムとレタスがどっさり入ったサンドイッチを手に取った。
「これ食べてええの?」
「……ふぁい、どうぞ」
「そんじゃいただきます。今日中に食わなあかんやろ、これ」
「でふね」
「食いながら喋らんでええ」
「……ふんふん」
初めてのドライブスルーではしゃいでた聖南が買った、二人分のブランチには多いサンドイッチ達は、俺とルイさんで無事に平らげてしまえそうだ。
楽屋のお弁当を食べて満腹な恭也は、そんな俺たちを微笑ましそうに見ている。
この食事で〝ざっくり話〟を忘れてくれるといいんだけど、ルイさんが許してくれるはずないよなぁ。
ごちそうさまでした、ありがとう。とちゃんと礼儀正しく手を合わせるルイさんに視線をやると、「で?」と早速続きを促された。
食べ終わるのを待って聞いてくるなんて、どれだけ俺と聖南のあれこれを聞き出したいの……。
「う、うーん……。疲れてましたよ、……ボス」
「ボス!?」
「ボス、……っ」
「だ、だって名前伏せた方がいいかなって思って! ほら、メンバーの二人がたまに呼んでるじゃないですか、ボスって!」
「そんなん言うてたかぁ?」
「言ってた、かなぁ……どうでしょう?」
「もう……っ」
言ってたよ、アキラさんもケイタさんも。
ちょっと揶揄い交じりだったり、聖南が指揮を取る場面だったり、そう頻繁にではないけど言ってたもん。
ここで聖南の名前を出すのはまずいと思って気を利かせたのに、変なところに食い付く二人に出鼻を挫かれた。
「そんな事はどうでもよくて。ボスはお疲れやった、と。そんで存分に癒やしたってんな?」
「ま、まぁ……分かんないですけど。録音聴いたあと、すぐ寝ちゃってたし……かなり疲れて……」
「ろ、録音っ? 葉璃、そんな、大胆な……っ」
「ちょっ、マジでぇ!? 二人ともええ趣味してんなぁ……!」
「えっ!?」
今度は何っ? 二人は何に食い付いたのっ?
俺が喋る度に大袈裟な反応をされて、一向に話が進まない。
二人が口々に「録音って……」とギョッとしてるところを見ると、よくない誤解をされてるんだって鈍い俺でも分かった。
「ま、待ってください、二人とも何か誤解してないっ?」
「いやまぁ、熱々カップルが久しぶりに会うたらそりゃあもう燃えまくんのは分かるよ。分かるんやけど……録音てなかなかエグいプレイ内容やで。しかも自分らで楽しみよるとは……」
「そ、そうだよ。俺にはとても、考えつかない……。葉璃、よく許したね?」
「やっぱり誤解してるー!!」
俺と聖南は断じて、そんなプレイはしてない!
なんでそんな発想に……しかも恭也まで。
俺は、立ち上がって憤慨した。
「もうっ」と憤った勢いで、ルイさんと恭也を手招きして呼ぶ。内緒話をするように体を寄せ合って、録音の意味を伝えた。
「昨日レイチェルさんとボスが二人きりで話したらしいんだけど、その時の会話をボスは録音してたんです。それを俺に聴かせてくれたってだけです」
「あぁ、……そういう事。ビックリさすなよ」
「なんだ……葉璃たちをって意味じゃ、なかったの……」
「違うよ……どんな勘違いしてるの、二人とも……」
脱力した俺は、あぁそっかと合点がいった。
すべては俺がレッスンを休んだから、二人の妄想がそっちに引っ張られちゃうんだよね。俺の性格なんかも二人は熟知してるだろうし。
ほんとに俺は、前日にどれだけ聖南に愛されようと今まで遅刻や欠席が無かったから。
それにしても、恭也とルイさんがすんなりそういう妄想をしちゃえるくらい、俺と聖南はそんなプレイをしてそうに見えるのかな……。
それはそれで複雑だ。
「なんやまぁ楽しんだのは分かった。でもなんでボスは会話を録音してたん? なんや意味深やな」
「でもこれ話していいのか分かんないんで……」
「ほんまに意味深やん」
俺を共犯者にした聖南のプランは、もしかすると他言無用かもしれない。
その辺を聞いてなかったから、俺は二人にさえも話すことを渋った。
だって二人はもう、なんていうか……俺だけが勝手に思ってるだけなんだけど、ETOILEのメンバーである前に、一心同体? 家族? って感じだから……どうしても、内緒にしてる方がおかしいと思ってしまう。
「レイチェルさん、まだボスのこと、諦めてないの?」
「そうみたい……」
「俺と恭也で、レイレイはマスコミと繋がってるかもーて推理してたやん。その後どうなってんやろな」
「それなんですけど、……。あぁ、これも話していいのか分かんないな……」
「ボスの了承を得た方がええ話なん?」
「……かもです。ボスには作戦があるみたいで」
「作戦、……」
「へぇ? レイレイ諦めさす作戦か」
そんなのあんの、と興味津々なルイさんと、何やら考え込んだ恭也にはやっぱり話しておきたい。
俺はそっとポケットからスマホを取り出して、例の〝プランB〟のことを二人に話していいか聞くために聖南にメッセージを打った。
「──あ、大丈夫なんだ。すぐ返事きたよ」
「そうなの? 聞きたいな」
「俺らも知っといた方がええやろな。作戦いうからには協力者は多い方が何かと都合がええんちゃう」
聖南も違う局で仕事中だから、こんなにすぐ返事がくるとは思わなかった。ただ一つ、『二人にだけな』と釘は指してあったけど。
二人だけってことは、マネージャーの林さんにも、春香にも、ダメだって意味なんだよね、きっと。
「でも俺……うまく説明できるか自信ないなぁ」
「葉璃が、理解してる部分だけでも、いいよ」
「そうそう。話がとっちらかっても俺らは訳分からんし。ハルポンがふむふむて納得したとこだけ聞かせてくれたら、あとはこっちで推理するわ」
「えぇ……?」
俺の理解力と説明力に難有りなことを、二人ともがイジってくる。ルイさんのセリフに恭也がクスクス笑ってるのが、何よりの証拠だ。
聖南の頭の中を覗いても分からないと思ってることを、俺が一から十まで説明できるとは自分でも思わないから、怒るに怒れないのが悲しい。
とりあえず林さんが合流するまでに話をしてしまおうと、俺はまた体を縮めて内緒話スタイルになった。
俺より大きな二人は屈むのが大変そうだけど、構わず話していく。
レイチェルさんがマスコミから情報を得ていることを遠回しにボロを出した事と、聖南に愛を伝えた事と、聖南がレイチェルさんに浮気相手になるよう提案した事を指折り数えて、がんばった。
あとは二人が推理してくれるらしいから、俺が言えるのはここまで。
報道規制を解除するタイミングも話そうとしたけど、それについては俺の理解が進んでないからやめておいた。
「……情報盛りだくさんやな」
「メモ、取りたかった」
「ほんまにな」
話し終わると、それぞれ元の位置に戻って二人ともが腕を組んで唸った。
すごく掻い摘んで話した俺の説明より、聖南が持ってる録音を聴かせた方が二人の理解は早い気がする……。
──恭也とルイさん、全然印象が違うのに雰囲気いいなぁ。カッコいいなぁ、二人とも。
こんな時に何考えてんだろって自分でも思う。
目配せしてる恭也とルイさんを交互に見ていると、俺のちんちくりんさが際立つ対照的な二人の姿に、こっそり萌えてしまった。
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