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52♣⑥

─ルイ─  俺がマネージャー業務から離れて二ヶ月ちょっとで、あの企画案が具体化されたと聞いたのは先週の事やった。  いよいよ本決まりになりそうやけど我らがボスの最終決定次第、と林さんは苦笑いしとったから、あんまり良い返事は期待できんのやろう。  俺はこの話を聞いた時、めちゃめちゃええやん!と即答してもうた。  まだ自分が新メンバーになれるかなれんかくらいの時期で、ほんまにそうなったら俺は絶対やりたいとまで言うたし。  ハルポンのことも、恭也のことも、たった何ヶ月かしか接してないんに昔から知っとるみたいな感覚になれるやなんて、マジでスゴイことやろ。  二人と俺は性格が真逆やのに、なんや知らんけど気が合う。波長が合う。  レッスンやら仕事やらで一緒におったら、解散する時めちゃめちゃ寂しなる。『帰りたない』と後ろ髪引かれる気持ちになるんよ。  そやからたとえ仕事やとしても、期限付きやとしても、俺は二つ返事のつもり。  社長の話を唖然と聞いてる二人は、残念ながら微妙な顔しとるが。 「あの……いくつか、聞いておきたいことが、あるんですけど……」 「うん、何だろう? 答えられる範囲で僕が返答しよう」  何回も首を傾げてるハルポンはさておき、恭也が早速自分の理解とのすり合わせを始めた。  お、恭也の方は結構前向きな返事が聞けそうやん? 「撮影は、週に三日、なんですよね? それ以外も、一緒に住むってこと……ですか?」 「そうだね。ただこれは大塚の社員として返答をすると、ずっとってわけじゃなくていいよ。いきなり三人でのルームシェアなんて色々と難しい面もあると思う。週に三日の撮影さえこなしてくれれば、それぞれ自宅に戻っていてもいい。まぁ出来ることなら、なるべく多くの時間を三人で過ごしてほしいというのが正直なところなんだけどね」  そうや、そういやそんなこと言うてたな。  ひとり暮らし経験が無い恭也と、実家から出た事はあるがボスと住んどったハルポンは、いきなりのルームシェアに息苦しさを感じるんちゃうかって林さんは心配しとった。  なぜか俺の心配は全然してくれんかったんで理由聞いたら、『ルイくんは何でもソツなくこなせるから大丈夫でしょ』と笑われた。  まぁ、恭也とハルポンがおらなこのオファーも成り立たんわけで、出来るだけ二人のストレスは減らしたらなあかんよな。 「……住まいは、どうなりますか?」 「大塚と提携しているマンスリーマンションを借りる予定だよ。間取りや広さなんかは三人で決めていいそうだけど……ですよね、社長?」 「あぁ、もちろんだ。ETOILEは他の出演アイドルとは比べもんにならんほどの人気と知名度がある。番組にとって目玉であるETOILEが出演するというだけで、向こうは万々歳だろう。こちらとしても、出来るだけ三人の希望を叶えた状態で撮影に臨んでほしいと思っている」 「…………」 「…………」  ほうほう、住むとこは事務所が借りてくれるんや。マンスリーマンションっちゅー事は家具家電付きか?  必要最低限の物が揃ってんのやったら、食材買うてきて俺が朝メシと晩メシ作れるやん。  三人でニコニコ食卓囲むん今から楽しみなんやけど……! って、まだ気が早いか。  具体的に理解しよる恭也の返事はまぁまぁ期待できるが、話を聞いてんのかどうか怪しいハルポンはボスの手前もあって厳しいかもしらんな。 「ちなみに、撮影……というか、一緒に暮らすのは、いつ頃になりそうですか?」 「諸々が順調に決まっていけば、三月の下旬からになるかな。決算月のパーティーが終わってすぐだと思っておいて」 「はい、……」  オファー受けるとなったらコトが進むの早そうやな。  心の中でそう頷きかけたんやが、俺は聞き慣れん単語の方に興味をそそられた。 「決算月のパーティー? そんなのあんの?」 「今年はルイも参加するんだぞ」 「もちろんそれはええんやけど、俺テーブルマナーはそんな自信ないで」 「……ルイさん、三月のパーティーは、テーブルマナー必要ないです」 「あ、立食か? そんなら大丈夫やわ」 「立食でも、座ってでも、どちらでも。羞恥心さえ無くせれば、楽しめます」 「なんで羞恥心?」  真顔で返してくれた恭也と、社長の隣でクスクス笑っとる林さん。どっちの反応が正しいんか分からんから、間取ってハルポンの表情を……と顔を覗き込んでみたが、まだ心ここにあらずやった。  ハルポン、ええ加減戻ってこい。  いつまで呆けてんねん。 「恭也はどうだろうか? 三人でルームシェアが出来るか出来ないか、考えてみてくれ。まずはそこが重要だ。無理強いはしたくない」 「出来るか、出来ないか……。だと、俺は、出来ると思います」 「そうか! ではハルは……」  やった! 恭也のOKもらえたやん!  ひとまず第一関門クリアやな。  残る関門は二つ。ハルポンの返事と、ボスの最終決定……うわ難関すぎるやろ。  ハルポンは俺と恭也で言いくるめてしまえばいけるかもしれん。ただなぁ……問題はボスや。  我が恋人を男二人と一緒に住まわすなんて「無理」の一言なんちゃうかな。  いや待て。ハルポンは男や。なんや分からんけど頭ナデナデ〜ってしたなる顔やけど、付くもん付いてるオトコノコやろ。  いやいや待て待て。そうは言うてもボスから愛されまくってるハルポンは、たまに得体のしれん色気を振りまきよる。それに惑わされる輩が実際に居るのを、俺も見聞きしたことがあるもんな。  いやいやいや、俺がごちゃごちゃ考えとってもしゃあないやん。  思うより先に、俺は「なぁ社長」と口を挟んだ。 「セナさん抜きでこの話してもうて良かったんか? 最終決定下すんはセナさんやろ?」  そう言うと、社長は俺のセリフを先読みしとったみたいにパカパカ開くタイプのガラケーを手にした。 「セナにはこれから話を通す」 「これから!? それヤバいんちゃうん」 「ここにハルがいると分かれば、セナも駄々はこねんだろう」 「うーわ……社長も考えたな」 「放送時期がルイ加入のタイミングと重なる。よってこれ以上ない宣伝告知にもなる。ぜひ三人には良い返事をもらいたい。無論、セナにもだが」 「…………」 「…………」 「…………」  俺は振り返って、ハルポンの頭越しに恭也を見た。  「今からセナさんに話すんやって」、「マズいことにならないといいですけど……」と、視線で会話を交わす。  なんや分からんが、ここ最近で恭也とは目だけで話せるようになった。お互いの考えてることが分かる、とも言うんかな。  それに比べて、ハルポンとはまだあんまり意思疎通が出来ん。  相変わらず天然王子やし、変なとこで頑固やし、興奮したり爆笑したりのツボが謎の不思議ちゃんやから、人となりは熟知しとっても考えてることはまったく分からんのよな。  ……ほらな、今もそうや。さっぱり感情の読めんツラしとる。 「おぉ、セナか。今話せるか」

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