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「ハルポン分かりやすー」
「ふふっ……」
ルイさんの車に乗せてもらって一足早くテレビ局に到着した俺は、先に衣装に着替えてウロウロと楽屋内を歩き回っていた。
二人には合流した時点で聖南が来ることを伝えていて、落ち着きなく動いてる俺を遠巻きにクスクス笑ってるのは、そういう事だ。
なんと恭也とルイさんは、事務所で俺と落ち合う前に二人でご飯を食べて来た(ちなみにパスタだって!)らしい。
最近すっごく仲良しな二人を見てると俺まで嬉しくなる。並ぶと絵になる二人がランチ食べてるところを写真に撮って送ってほしかったって、駄々をこねたくらいだ。
「まさに忠犬ハル公やな」
「そんな感じですね。葉璃がワンちゃんだったら、何だろう? ……うーん、チワワ……?」
そわそわして落ち着かない俺は、聖南を待つ忠犬と例えられた。
二人の会話を薄目でじっとり見やっていると、恭也がスマホを取り出して何やら検索を始めている。
待って待って、まさか。
「いやいや、ハルポンはマルチーズやない?」
「あ、待ってください。トイプードル、似てますよ」
「どれどれ……ほんまや! トイプードルや!」
「俺、将来トイプードル、飼おうかな……」
「おう、ええやん」
ほらね、やっぱり。
恭也は俺に似てるワンちゃんを検索して、それをルイさんに共有して盛り上がっている。
百歩譲って、明らかに聖南待ちの俺が忠犬に例えられるのはいいとする。でも似てるワンちゃんを本気で探すのはどうなの。
ていうか、……。
「俺……トイプードルに似てる?」
「似てる」
「似とる」
「えぇ……っ」
恭也に近寄ってスマホの画面を覗き込むと、くるくるな毛並みとつぶらな瞳が可愛いトイプードルが載っていた。
全然似てないじゃん、と鼻で笑いかけた俺に、真顔の二人から即答される。
「でも、どっちかっていうと、葉璃は猫ちゃんだよ」
「あぁ、たしかに。この目がなぁ……フッ。可愛え」
「えっ……」
「えっ……」
不意打ちで顎クイされた俺は、至近距離でルイさんの顔を拝むことになった。
いつかも思ったけど、少し垂れ目のルイさんは誰がなんと言おうとワンちゃん顔だ。
派手で整った顔立ちは芸能人になるべくしてなったようだし、セミロングの明るい茶髪を遊ばせて今風の陽キャって感じの雰囲気は絶対に女の子がほっとかないと思う。
たぶん今までもそれなりに遊んでそうだし、メイクの濃かった〝ヒナタ〟にゾッコンだったルイさんが、俺に「可愛え」だなんて馬鹿にしてるとしか思えなかった。
だから俺はかなりむくれて、すごく近いところでルイさんに言い返してやった。
「ルイさん、ふざけるのやめてください。怒りますよ」
「ふざけてへんよ。可愛いもんに可愛え言うて何が悪いん」
「俺が可愛くないからですよ!」
「葉璃は、可愛いよ!」
「ハルポンは可愛えっての!」
「えぇっ!?」
恭也まで参戦するとは思わなかったよ!
揶揄いを通り越してるように感じたルイさんの軽口に、俺はキレたんだけど。
まさか立ち上がって腕を掴んでまで恭也がルイさんに肩入れするとは思わず、謎のトライアングルに俺はギョッとなった。
するとそこに、スタッフさんのノックが響く。
『セナさん入られまーす』と聞こえた俺の意識と視線は、一瞬で扉に向かった。
「おっす。賑やかだなー」
「あ、お疲れっす!」
「お疲れ様、です」
「聖南さん! お疲れ様です」
黒のロングコートが似合い過ぎてる聖南が現れるや、俺はたちまち忠犬に戻った。
もしも尻尾があったらブンブン振ってるだろうなって自分でも分かるくらい、急いで聖南に近寄って行った。
そして、すぐにでも話をしたかったからか無意識にどうでもいい事を話しかける。
「聖南さん、俺トイプードルに似てますっ?」
「トイプードル? 何だよ急に。似てねぇよ」
「ですよねっ? ほんとに、俺なんかと似てるだなんてトイプードルに失礼ですよね」
「なんでやねん」
「葉璃、本当に似てるのに……」
うんうん、だよね。聖南は似てないって即答してくれた。
恭也とルイさんのツッコミは聞かなかった事にしよう。
俺なんかに似てるとかありえない事を言われて、トイプードルが気の毒だもん。
全トイプードルに謝らなきゃレベルだよ。
「似てる似てねぇの話だったら、葉璃にもっと似てるの見つけたんだよ。ついさっき……なんだったかな」
え……何? 今度は聖南がスマホで何かを検索し始めたんだけど。
先輩を立ちっぱなしにしといて、俺達ってば失礼極まりない。だけど俺が聖南と話したくて振った話題だから、何とも止めがたくて事態を見守った。
次は何と似てるって言われるんだろ……。
探してた画像が見つかった聖南が、「あったあった」と言いながら恭也とルイさんのところまで歩んだ。
「ほら、これ」
「あぁ……!」
「ほんまや……! これや! まんまハルポンやん! この首傾げてる感じ!」
「え、どれですか。見せてください」
トイプードルの時よりも反応がいい……!
ジメッとした俺に相応しいらしい何かが気になって、スマホを見せてもらった。
聖南は見る目があるからなぁ、とワクワクで画面を見てみると、そこには目も体もまんまるで真っ白な鳥さんが居た。
「……俺こんなにもふもふしてないですよ」
「ふふっ……それはそうだけど……、ふふっ……」
「いやハルポン。似てんのはもふもふ具合とちゃうねん。顔や、顔」
「顔……」
「な、似てんだろ? さっきツアーで回る地域の画像を色々見ててさ。こいつ出てきた瞬間に葉璃じゃんって思って」
「可愛い、ですね……。なんだろう、この子、小さいのかな」
「小せぇよ。十五センチも無いらしい。ちなみに雪の妖精って呼ばれてんだと」
「妖精て……ますますハルポンやん」
はい〜? みんな、さっきからずっと俺じゃない人の話してるよね?
ジーッと鳥さんを見ていると、小さく〝シマエナガ〟って書いてあった。この鳥さんの名前なのかな。初めて聞いたし、初めて見た。
すごく可愛いよ、この子。
みんな同じ顔して木の枝に止まってる写真なんか、ダウンロードして物理的に飾っておきたいくらいだ。
意味が分かんない。
この子と俺のどこに接点があるの。
「あの……俺そんなイメージなんですか? 俺が人間じゃなかったら、もっと薄暗くてジメジメした場所に住んでますよ」
「葉璃こそ自分にどんなイメージ持ってんだ。ジメジメした場所って?」
「え……ゴミが散らかった路地裏とか……?」
「無い無い」
「そんなわけないやろ」
「葉璃……それは、ありえないよ……」
ハッキリとは言わなかったけど、俺は人間じゃなかったら、みんなから毛嫌いされる系の虫かなと思ってる。
トイプードルだのシマエナガだの、良く言い過ぎなんだよ。
どっちもおめめクリクリで毛もフサフサで触り心地が良さそうで、なんといっても全体的に愛くるしさが爆発してるじゃん。
三人で慰めようとしてくれるのはありがたいけど、俺は筋金入りの陰キャなんだから虫さんで充分だ。
……と、そんな事を考えて苦笑いしてると、聖南から腕を引かれて体が密着する。
「な、葉璃。その控えめ過ぎるとこも俺は好きだけど、ジメジメした汚え路地裏に住んでるような玉じゃねぇからな? 葉璃は、一面花で埋め尽くされた花畑の上を飛ぶシマエナガだ」
「……結局シマエナガなんじゃないですか」
「あはは……っ、ちなみにシマエナガは寒いとこに生息してっから、俺が温めに行くよ」
「へへっ……。でもシマエナガはふわふわなんで寒くなさそうですよ」
「それもそうか。じゃあ俺が温めてもらわないとな」
「へへっ……へへへっ……」
そんなのお安い御用だよ。
シマエナガの姿じゃ温められないけど、俺だったら聖南をムギュッと抱きしめられる。
実際に夏から秋に季節が移り変わる時、寒暖差が激しくて夜は常に抱き合って寝てたもんね。
えへっ、……へへ……っ!
今度の密会では、エッチなことばっかりじゃなくて清らかなイチャイチャもいいかもしれない。
優しく見つめてくる聖南が、俺の手を取ってにぎにぎしてくれた。
嬉しいな……聖南が一緒の現場、こんなにワクワクするものなんだ。
「あのぉ……セナさん、ハルくん……誰が聞いてるか分からないからその辺で……」
「…………っ!」
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